少しだけ遠くでどーんという音が響き、その度に空気が震える。黒鋼は、感慨深げ
に夜空を見上げた。大きな花火が正に夜空の花と咲いている。黒鋼は、まだ諏訪に
いた頃から花火が好きだった。ずっと、大切な誰かともう一度花火が見たい。異世
界を渡りながら、夏の国に到着する度、そう思っていた。
そして今、隣にはファイがいる。ファイは花火が上がる音がする度に黒鋼の袖をぎ
ゅっとつかむ。そんな動作もなんだか可愛らしい。
「綺麗だねぇ・・」
呟いたファイを見ると、目が合ってしまった。ファイはへにゃんと笑うと言った。
「黒様、この音って、何とかならないかなぁ。なんか儚い光に不釣り合いっていうか、
思わず耳を押さえちゃうんだけどー。」
「よく言うよ、押さえてるのは耳じゃなくて袖だろ?怖いのか?」
ケッと悪態をつき、再び黒鋼は夜空に咲く花を見上げ、付け加えた。
「花火は音があってこそ風流なもんなんだよ。」
「え〜怖くないけど、」
ひゅるるるるる・・・どーん
「!」
ファイはまた黒鋼の袖をぎゅっと握りしめた。ついでに両目もギュッとつぶっている。
黒鋼はファイの顔をのぞき込み、意地悪く言った。
「怖くないなら袖、離せ」
一瞬泣きそうになるファイ。そして渋々袖をつかむ手を離そうとした。そこへまた尺玉
があがった。
ひゅるるるるる・・・どーん
「!」
離そうとして、握り直してしまった。上目遣いにそうっと黒鋼を見上げると、ニヤリと笑
っていた。
「怖いんだろ?お手々つなぐか?」
普段なら嬉しい申し出も、なんだか子供扱いされてるようで素直になれない。本当
は、黒様の腕の中で花火を見ていられたら、ちっとも怖くなんか無いのだけれど。
返事に困って下を向いている間にも、次々と花火が打ち上げられてゆく。
「綺麗だ・・」
黒鋼の思わず出たかのような声に顔を上げると、黒鋼は花火でなく、ファイを見つめ
ていた。心臓が跳ね上がる。一瞬キスされるのかと思い、ちょっぴり緊張した時、黒
鋼が言った。
「おい、着崩れてるぞ。直せ。」
「え?」
見れば白鷺城で着せてもらったときより前身頃の袷がずれている。ずれていることは
わかったものの、困ったようにファイは言った。
「ん〜、オレ直し方知らないんだけど〜」
「あー、そうか・・・。」
まだ日本国に来たばかりである。浴衣も着物も自分で着れないとか言っていたっ
け。
「じゃぁ、・・・」
直してやろうと手を伸ばした時、指が、鎖骨に触れた。
時が止まったような気がした。
時が流れ出した時、黒鋼は、片方しかない腕でファイをかき抱き、唇で鎖骨をなぞ
っていた。
「あっ・・・」
ファイは静かな境内で小さく声を漏らした。黒鋼はその声に煽情されたように、激し
く鎖骨に口づける。
「んっ」
ファイは眉根を寄せたが、黒鋼は器用に唇でファイの両肩を露わにすると、胸にキ
スをした。
色とりどりの花火の光がファイの白い肌に映っては色を変えてゆく。
「綺麗だ・・・」
花火が白い肌に映る度、その場所にキスを重ねてゆく。いつの間にか、帯が外れ落
ちていた。
気がつくと、ファイは黒鋼の腕の中にいた。片腕で前から腰を抱くように、自分を
抱いている。そうっと見上げると、黒鋼はファイが起きたことに気づいた。
赤い瞳が意地悪く光る。
「ヤってる間は怖くなかったろ?」
「!!」
顔を真っ赤にして下を向く。
「うん・・・ありがと」
ニヤリと黒鋼の口元が動いた。
「そんなに良かったなら今からもう一度やるか?」
「ち、ちがっ、そういう意味じゃなくて、」
あわてて黒鋼の腕から逃げようとしたが、逃れられない。黒鋼がファイの細腰を抑え
るには片腕で十分なのだと思い知らされた。
「わかってるよ。後でな」
耳元でささやく。今はしなくても後でするの?
などとは聞けない。
また、花火が上がった。そしてファイが袖をつかむと、それが合図のように黒鋼は
優しく口づけた。
もはや恒例(笑v)銀鷹さま小説!『夏祭り』の続き、義手が付く前の隻腕黒様のお話だそうですv
音を恐がるファイたんが可愛くて、叙情があってしかもえっちでvとってもよかったですーvv
素敵なお話、ありがとうございました!!