「それでは行ってらっしゃいませ、黒鋼」
知世姫と蘇摩に見送られ、黒鋼はファイと共に歩き出した。
「へぇ、賑やかな音楽が聞こえてくるよー。黒ぽん、早く早くー」
笛の音が聞こえてきたとたん、ファイは小走りに先へ行ってしまった。こいつが小走りす
るなんて、今まであっただろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていたら、ファイが大声を出した。
「黒ぽーん、早くってばー。なんか変なのがあるー!」
変なもん?
足を速めて追いつくと、そのあたりは屋台街であった。
「変なもんってどれだ?」
眉間にしわを寄せながら尋ねるとファイは言った。
「えー、みんな変じゃない?あれなんか、子供に綿を売ってどうするのー?」
「あれは飴だ。」
「じゃぁあのホットケーキに生姜が乗ってる奴って? あれ、紅生姜って言うんでしょ?
オレ覚えたんだー」
えへん、とばかりに威張って言うファイに、黒鋼はため息をついて。嫌なことを考えてし
まった。
もしや、屋台初めてなのか?こいつ・・・?
ってことは、一緒にいる俺がいちいち全部説明すんのかよっ(-_-メ)
「ねー黒様ってばー。ホットケーキに紅生姜って合わないと思うんだけどー。この国の人
ってみんなそういう風に食べるのー?だってすっごく辛かったんだよー。」
「・・・・(-.-#)」
もう何も言うことはない。こいつ相手にいちいち説明するのも面倒くせぇ。
「食ってみりゃわかる」
「えーそりゃそうだけどー。」
そこに売り子から声がかかった。
「よ、そこの美人の兄ちゃん、ちょっと味見してみなっ。ぜってーはまること間違いなし! 
ここの数ある屋台の中でもうちが一番売れてるんだから味は保証するよ!さぁさ、食って
みなって。」
ほとんど強引に小皿を押しつけられてしまった。ファイは数秒渡された皿を見つめていた
が、意を決したように(売り子がじっと見ていたせいもあるだろうが)ほんの一口、口に運
んだ。
「! なんかしょっぱいけど美味し〜♪ おじさんこれ2つくださいっ」
「はいまいどー!」
「おい、何で二つなんだ、くえんのか?」
あわてて口を挟むと、ファイはこともなげに言った。
「えー、もちろん俺と黒様の分だよー。あ、半分こが良かった?」
「俺はいらねぇ、つーか、おい、金払ってけよ、おいっ」
歩き出したファイに呼びかけても聞こえてないふりをしている。
「お客さん、二つで200文ですよ。」
調子のいい店主が黒鋼に手を差し出した。
「わかってるっ!」
その手に200文押しつけると、走ってファイを追いかけた。
「おい、てめぇが欲しいなら自分で払えっ」
ファイが振り返る。不覚にも黒鋼は少しだけどきっとした。
ファイは、へにゃんと笑うと、言った。
「オレ、この国のお金、持ってないもーん」
「なんだとー!ふざけんな、俺は帰るっ」
踵を返し、立ち去ろうとする黒鋼は、何かに引っ張られて、足を止めた。
「?」
見れば、ファイが袖の端をつかんでうつむいている。
「離せ。」
「・・・」
「聞こえなかったのか?手を離せ」
「や・・だ」
蚊の鳴くような声。でも袖を握る手は離そうとしない。
黒鋼はホウっと大きくため息をつくと、ファイのアゴをつかんで上に向けた。
「どうしてもって言うんならつきあってやってもいいが、」
「本当?黒様優しい!」
「ただし、見るだけだ。食い物もガキのおもちゃも買わねーぞ。」
「えー、やっぱり意地悪だー」
 結局ファイは黒鋼に逆らえず、それぞれのお店を覗くだけで我慢した。
 色々な店を覗くだけでも楽しかった。子供達が綺麗な柄の風船を小さな金具で釣ったり、
かわいらしい金魚を不思議なトレイですくったり。銃を使ったゲームもあって、すっごく
やりたかったけど、黒様がすごい目でにらんでたから我慢した。盛り上がっていたのが、
輪投げって言う遊びだ。やってみたかったなぁ。でも、ヨーヨーってどうやって遊ぶんだ
ろう?とれた男の子はすごく喜んでたけど、オレにはよくわからないや。
 そんなことを考えながら黒様と歩いていたら、あっという間に屋台ももう最後だった。
ちょうど、神社に続くように屋台が並んでいたらしく、なんとなく神社の中へと歩を進め
る。
 神社の中は所々にたいまつが灯してあって、幻想的な雰囲気に包まれていた。黒鋼を見
上げると、彼もファイを見ていた。
「こっちに散歩するような道があるんだが。行ってみるか?」
黒鋼は目をそらしながら、左手を指さした。
「うん。」
少しだけ緊張気味に、ファイが答えた。
 大きな池に出た。満月が水面に映り、揺らめいている。ファイは思わず声を上げた。
「わぁ、きれい・・・。」
「だろ?白鷺城から近い場所の中では、一番月が綺麗に写るって話だ」
思わずお国自慢のようなことを言ってしまい、黒鋼はあわてた。
「そうなんだ・・あ、ほたる・・」
普通、蛍は初夏までしか光らない。今の盛夏と呼ぶのがふさわしい時期まで現れているこ
とはほとんど無いはずなのだが、数匹の蛍が水面を飛んでいた。
「珍しいな、こんな時期までいるなんて・・」
黒鋼が思わず口に出すと、ファイが黒鋼を見上げて言った。
「そうなの? じゃ、俺たちを祝福してくれてるって事で」
へにゃん、と笑いながら言う魔術師に思わず黒鋼は怒鳴った。
「何で蛍に祝福されなきゃ何ねーんだ!」
「あっ、逃げちゃうっ」
すーっと、ほたるたちは手を伸ばせば届くような距離から、湖の中心へと行ってしまった。
「あーあ、黒様が大きな声を出すからー。」
プンスカと、ファイが文句を言いながら顔を上げると、黒鋼はファイをじっと見つめてい
た。いつの間にか肩に手が置かれている。
「黒様・・・」
自然と瞳を伏せたファイに、黒鋼は口づけた。蛍が再びすぐ側で輝いているのも気づかぬ
ままで。

END


                    

銀鷹さまがまたも素敵小説を下さいましたv
 167話後に「包帯」があったその後で、日本国でお祭りがあると聞いたファイが黒様を
 無理矢理連れ出すという話です。屋台にはしゃぐファイたんが可愛いーっv
 ラブラブな黒ファイ、本当にありがとうございました!!

夏祭り