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金持ち黒鋼物語・再来編1

ブログ連載『金持ち黒鋼物語』43〜48“ファイたん、黒鋼の両親にご挨拶をする編”を前提としてのお話ですので、
読んでいない方はまずそちらから読んで頂けると有難いです♪



首都の一等地、一際目を引く超高層ビルの最上階。そこは、ワンフロア全てが社長室となっている。全面ガラス張りの
壁脇に立てば、眼下に立ち並ぶ高層ビル郡も行き交う人々の群れもまるで玩具のように見えた。
黒と木目、シルバーを基調とする重厚さと高級感のある空間で、プレジデントチェアに深く腰掛けゆったりと脚を組む
長身の男。仕立ての良いオーダースーツを少々着崩して纏っているが、その下には頑強な体躯が隠されていることが一目で
窺える。鏡面張りのエグゼクティブデスクに置かれた最高性能PCのディスプレイに目を遣りながら、武骨な指が幾分乱暴に
キーを弾く。
彼は大財閥諏倭グループの日本支部総帥であり、名を黒鋼という。その手腕やカリスマ性は類稀で、財界に及ぼす影響は
計り知れない。そしてオレは彼の秘書であり、きっちり着込んだ細身のスーツに固く結わえた金髪、銀縁眼鏡姿という
いつもの仕事着で斜め後ろに控え、本日のスケジュールをざっと読み上げた。
「・・第3ミーティングルームにT社社長がみえるので、そこで最終調整の確認をお願い致します。関係書類はこちらに。
その後経営企画部からの次期プロジェクト案プレゼンが20階ホールにて行われます。提案に関するデータは送信して
おきましたの・・で・・・てっ、ちょ、黒様っ!」
「あん?ちゃんと聞いてやってんじゃねぇか、続けろよ」
優雅に脚を組んだままオレを見上げ、いかにも人の悪そうに口端を歪める。キーを操っていたはずの手のひらはいつの間にか
背後に回っていて、滑らかな布地越しに腰のくびれや小さな双丘を撫で下ろした。
仕事モードに入っていたはずの意識は、いやらしい指先に擦られるまま乱されていってしまう。
「15時からは新規支部の視察へ、向かうので・・・っん、も・・ダメ、やめて・・・っ」
「何だ、これだけでもう泣きそうだな・・ああ、昨日可愛がってやらなかったからか?」
チェアから立ち上がりざま強引にオレを引き寄せ、内腿を辿りながら耳元には艶のある低い囁きを落とし込んで。
それだけで、夜毎深く沈められる魅惑的な世界への入り口が見えてきて、膝に力が入らなくなる。

そうだ、昨日は深夜まで仕事が長引いたこともあって、彼とベットに入ったのにすぐうつらうつらしてしまって。
毎晩付き合わせているオレの体調を気遣ってだろう、黒鋼は髪に軽く口付けただけで柔らかく抱き締めていてくれた。
そのまま、幸せな気持ちですぐに眠りに落ちてしまったけれどーーーー
今こうして触れられると、昨日与えられなかった熱をどれだけ焦がれていたかを自覚する。戸惑いながらも毎晩
攫われているうち、一日でもこの人なしではダメな身体になってしまったのだろうか。
「いけません、黒様・・っこんな所で!お仕事、して下さいーっ・・」
「さっき言ってたろ、今日は朝イチの予定までまだ一時間もある。余裕じゃねぇか」
曇り一つないデスクを背に追い詰められ、そのまま上半身を倒すように圧し掛かられた。両手を戒められたまま真上から
噛み付くように口付けられて、それだけでつま先まで痺れてしまう。きっちり締めていたはずのネクタイはいつの間にか
解かれ、甘く絡まる舌に気を取られているうちにシャツのボタンまで幾つか外されていた。
「ですからその一時間で、資料に目を・・通しておいて頂くつもり・・っ、で・・・!」
「資料なんざ、そん時見りゃ分かる」
肌蹴たシャツの奥を弄られるたび、肌は火照り視界はとろりと潤んでくる。解かれた髪は金の波となってデスクに散り、
眼鏡も外されて直接瞳を覗き込まれて。真っ直ぐな紅に逆らえなくて睫毛を伏せると、痕が残るくらいきつく首筋を
吸い上げられた。苦痛の中のうねるような快感に大きな身体に縋り付き、涙を一筋零した、その時。

ピピピピ ピピピピ・・

「誰だようるせぇな、邪魔すんじゃねぇ」
彼の胸ポケットから突然鳴り響いた甲高い着信音が、蕩けた意識を遮った。毟り取るように掴んだ携帯を舌打ちしつつ
放り投げようとした黒鋼は、一旦動きを止めて怪訝そうにサブディスプレイを見直す。
(・・誰から・・?)
大財閥諏倭グループの日本支部総帥の携帯番号を知りなおかつ直接掛けて来る者など、ごく限られている。
しかも彼はこういう行為の最中だと、どんな財界トップクラスの要人からの電話だろうと後回しにしてしまうというのに。
本当に珍しいことに、オレをデスクに押し倒したままで彼は携帯を耳に当てた。
「・・何かあったのか、電話掛けてくるなんて。・・・・あぁ?んなことしてねぇっつに!」
仕事相手に対してする短絡的で威圧的な語り口とは明らかに違う。何を言われたのか声を荒げているが、
でもどこか親しげな口調。受話器の向こうが全く予測できず首を傾げていると、ブラックメタリックの最新機器をぐいと
押し付けられた。
「おまえと話がしたいそうだ」
不機嫌そうな声、面白くなさそうな顔。本当はオレと話をさせたくないという本音がありありと分かり、ますます誰だか
分からない。恐る恐る四角く薄い通信機器を受け取り、そっと耳に当てた。

『よぉ、久しぶりだなファイ』
「・・・・ッ、お義父様・・!?!?」

どこか艶のある重低音は、この世で一番大好きな声によく似ている。けれど、誇りと自信に満ちまるで超人のような彼よりも
さらに上行く貫禄が感じられる、それは黒鋼の父親のものだ。
各国に展開している大財閥諏倭グループ、その世界支部を統括しているのは黒鋼の御両親である。世界を股に掛ける彼らの
多忙さは黒鋼の比ではないらしく、一人息子である彼でさえ会える機会はあまりないらしい。
その機会が一年程前にあり、オレはその時初めて御両親と挨拶が出来た。お義父様はその声と同じく姿形も黒鋼と
よく似ているけれど、どこか大きく見えて・・それは多分、積み重ねた経験の差によるものなのだろう。
まるで、今よりももっと素敵になった未来の黒鋼を見ているようだった。
声と共に瞬時に記憶が鮮明に蘇り、頬が熱くなる。
息子をからかう目的だったのだろうけど、オレはその“未来の黒鋼”にキスされそうになって。しかも、こともあろうに
オレは義父にかなりときめいてしまって、深く反省したのだ。

『可哀想に、朝っぱらから泣かされてなぁ。ったく、社長室で襲うなんざうちの馬鹿息子ときたら』
「えええ?!やっ・・!!まさか見てるんですか・・・ッ?!」
説明などしていないのに状況が分かるなんて、携帯がTV電話モードにでもなっているのだろうか。いやらしく蕩けた
あられもない姿を、よりによって義父に見られてしまったらと、そう考えただけで羞恥のあまり気が遠くなる。
慌てて確認したものの通常通話モードで、受話器の向こうから噛み殺した笑い声が聞こえてきた。
『息子め、“してねぇ”とかほざいてやがったがやっぱ当たってんじゃねぇか』
「・・?!まさかカマ掛けて・・!」
そういえばさっき黒鋼は受話器片手に、“んなことしてねぇ”とか言っていたじゃないか。多分、同じようにカマを
掛けられていたのだ。あっさり引っかかってしまったオレに小さく溜め息を付いてみせた黒鋼は、眉間にしわを寄せて
携帯を取り上げた。
「親父には関係ねぇだろ。で?用は何なんだ」
『関係大アリだ、こないだ会った時ファイに約束したからな。“こいつに泣かされたら、すぐ飛ん来てとっちめてやる”
ってな。せっかくの可愛いお嫁さんが泣かされてんのに、黙ってられるか』
ぴたりと引っ付いて耳をそばだてていたから、オレにもはっきりと義父の声が聞こえる。
そしてそれは一年前の別れ際のシーンを、切なさに似た寂しさと共に思い起こさせた。そう、確かにそう言っていた。
一年も前の、あんな冗談みたいな約束。
お義父様は毎日すごく忙しくて、海の向こう遥か彼方にいて、それに何よりお義母様と深く愛し合っていて。
遠い遠い存在のその人が、そんな冗談をちゃんと覚えていてくれたことが嬉しくて、心臓がひとつ大きく鳴った。
・・・・・・のが感付かれてしまったのだろう、逞しい腕に咎めるように強く引き寄せられる。
「悪ィが、親父の出る幕はねぇよ。俺らは仲良くやってるから、何も心配するな」
『そんな冷たいこと言うなよ。大事な息子と可愛いお嫁さんに会う為に、遠路遥々来たってのに』

その言葉に、二人して硬直した。

一瞬後我に返ったオレは、緩んだ彼の腕から抜け出し全速力で衣服の乱れを正す。そして黒鋼は取り落としそうになった
携帯を持ち直し、慌てて周囲を伺いながら叫んだ。
「おい、待て親父!!まさか本当にここにいるんじゃねぇだろな?!」



久しぶりに金持ち黒鋼物語でっす♪助けに来るぞなどと言った割にあれから出番がなかった、黒パパ再来編です★
まあ泣かされてるといっても、気持ちよくて泣いちゃうとかそんなんなんでね・・助ける必要もないのですが・・(笑)
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