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永遠

淡く透き通る青空に、穏やかな風が渡る。仄かに漂う花の香りと、遠い山間に木霊する小鳥達の歌声。
雪と氷に閉ざされた故郷と違い、ここ日本国は瑞々しい四季が鮮やかに巡ってゆく。



国を傾ける忌み子として、生まれ落ちたのが始まり。
極寒の無限回廊で、絶望を知った。
半身を犠牲に、暗黒の呪いを埋め込まれて。
逃避行は初めから、仲間を裏切る結末が定められていたのに。


氷の枷に囚われていたオレを、解き放ってくれたのは貴方。
太陽のような鮮烈な輝きと焼けるほどの熱が、闇より深い呪いを溶かしてくれた。
孤独の牢獄から力強く腕を引き、救い出してくれてーーーーー
その手のひらに伴われ、ここが安住の地となった。


そして、今がある。



緩やかな光に誘われ、静かに縁側を開け放った。
幽かに色付く花びらが、ふんわりと揺れて舞い落ちる。
全てを優しく包み込むようなこの地は、やはり彼の生まれ故郷に相応しい。


「・・加減はどう?黒様ー」
「ああ、今日は身体が楽だ」


あれから、どれ程の時が流れたのだろう。運命を大きく動かした旅も、今は遠く懐かしい思い出となった。
帰郷した彼はじきに日本国忍軍の総大将となり、自身も先陣を切りながら多くの配下を従えこの国を守ってきた。


「ご飯、食べられる?」
「久々におまえの飯、腹いっぱい食いてぇな」
「ふふ、いきなりたくさん食べたら、身体がビックリしちゃうよー」


長年住み慣れたふたりの住まいは、緑薫りせせらぎの透る庭に囲まれた、居心地のいい一軒家。
先日まで絶え間ない見舞い客の訪問で騒がしかったけれど、今は水を打ったような静寂に包まれている。

『ふたりだけに、して差し上げなさい』

姫様がそう、皆に言添えてくれた理由。


上身を起こした彼の背に手を添え、ゆるめに炊いたお粥をすくい息を吹き掛ける。
口元へ寄せると、待ちかねたように口中へと消えた。
「美味ぇ」
「よかったー、はやくよくなってね。そしたら黒たんの大好物、めいっぱい作るから。忍の皆もね、大将がいないと気合が
入らないから早く戻って来てって言ってたよー」
「んだとォ?まさかあいつら俺がいねぇからって、腑抜けのまま任務やっつけてんのか」
気合入れ直してやんねぇとなと口角を上げる彼に、釣られて笑みを零してしまう。
実際は総大将が欠けている分、いつにも増して真剣に任務に取り組んでいるであろうことはお互いよく分かっている。
何たってこの人が持てる全てを叩き込み鍛え上げた部隊だから、日本国忍軍として誇れる兵揃いだ。

「・・黒たん?」
微笑むオレの頬を、ふと持ち上がった武骨な手のひらがゆっくりと辿った。
出会った頃よりも筋張っているけれど、以前よりもじんわりと優しいぬくもり。
「・・おまえは、昔から何も変わらねぇな。その形も、気の抜けた声も・・初めて会った時のままだ」
「黒様は・・毎日変わってくね。毎日、昨日よりもっともっとかっこよくなって・・今が一番、かっこいい」
「は、どこがだ。ったく、おまえは昔っから馬鹿なコトばっか言いいやがって」
笑う彼が愛しくて、大好きで大好きで。
その広い胸に寄り添ったら、命の響きが聴こえた。


強大な魔力を宿すが故に時が停まっているかのようなオレに対し、彼には経た歳月が刻まれてゆく。
いつも真っ直ぐで力強かった人生を物語るその身体は、初めて会った時よりずっとかっこいいんだ。




ーーーー魔力の無い者の生は、有り余る者から見て余りに儚く。
でも、目が眩むほど、輝いていて。



(魔力を注ぎ込めば・・いくらか生を延ばすことが、出来るだろうけれど・・)



けれど、
彼の美しさは。



気の遠くなるほどの刻を生きるオレと違い、
瞬くような時間だからこそ、輝くのだと



知っているから。





「おまえは・・本当に何も、変わらないな」
「うん・・変わらないよ。何も・・」



何も、変わらないよ。


貴方の優しさに触れた、あの日から。
貴方と共にいる、今も。
貴方を失って、何百年たっても。


ずっと、ずっと貴方だけを。



「なぁ」


何より愛しいその腕に、強く抱き締められる。
あたたかな鼓動に包まれたこの場所は、この世で一番安らげる世界。



「幸せか・・ファイ」
「・・うん、幸せだよ・・」



運命に翻弄されて、息も出来ないような道を歩み続けてきた。
でも、
貴方と出会って、初めてこんな気持ちを知った。



「オレね、世界で一番、幸せなんだ・・」
「そう、か」


愛する人が、くすぐったそうに笑った。
ああ、今この時が、永遠に続けばいいのに。


はなれたくない。
終わりなんて、来なければいい。
大きな身体を抱き締め返した指先が震えてしまって、ぎゅっと力を込めた。



「・・忘れるんじゃねぇ。俺はずっと、おまえを愛してるから」



心の奥を直接震わせる、低い囁き。

ああ、この声がいつもオレを救ってくれるんだ。

何度でも、何度でも。



「いいか、俺がいなくなっても。いつかおまえが、空へ還る時が来たって。
それでも俺は、おまえだけを愛している。・・覚えていろ、ずっと」
「黒・・さ・・」



瞳が熱を孕んで、視界が滲んで。
胸が、苦しいほど。




いつか、


この手に触れられなくなっても。



永い永い、オレの生が終えても。


それでも、貴方は。


孤独の檻から連れ出してくれた、力強くあたたかな手のひらを




オレへと向けて。




罪に塗れたオレに、全てをくれた。
オレは持てる全てを、貴方に捧げる。


涙が一粒、頬を伝った。




「愛してる」
「愛してる・・・」




ねぇ、それは




眩しいほどの、永遠の想いーーーー





数年前にブログでちらっと書き、一度ちゃんと書きたい!!とずっと思ってたネタです・・こういうネタは苦手な方も
多いでしょうので躊躇ってましたが、原作もクライマックス近しですし思い切って書いてしまったよ!すみません!!
銀月の、この世で一番愛するテーマは、“永遠”です・・永遠・・・それは愛の深い黒ファイに、何より一番相応しい
テーマだと思いますvvvちなみにエピローグへ続きます・・書けたらアップするんでよろしくです!
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