堀鐔学園・恋物語
ここは、私立堀鐔学園。
無愛想だけど頼れる黒鋼先生は体育教師、美人で可愛いファイ先生は化学教師。
生徒にも人気のある二人の教師、実は秘密で付き合っている。
秘密で付き合うのは大変だけど、でもちょっと楽しい毎日。
今日は、そんなある日のお話。
その日、黒鋼は顧問(多分)の剣道部が始まる前、ちょっと科学準備室に寄り道をした。
理由は、もちろん恋人である科学教師に会う為。ちょっとのつもりが、長くなってしまったのだけれど。
武道場に着いたのは、部活開始時刻を少し過ぎていた。
「おい、全員整列!」
号令をかけると、めいめい練習していた部員達がすぐ集まって来た。
「黒鋼先生!どうしたんですか、遅かったですね」
「色々あんだよ。ちゃんと自主練してただろうな」
先生が何をしていたかもちろん全く知らない部員達は、はい!と元気よく返事をする。
「先生、今日は僕が一対一で稽古つけてもらう番です、お願いします!」
1年の練習熱心な生徒が頭を下げた。部員には、一日一人だけ一時間ほど、一対一で稽古を
付けてやることにしている。
しばらく稽古を付けていて、気になることがあった。剣にぶれがある。
「うむ、形は良くなってきたな。でも、ちゃんと集中してるか?お前」
するとその生徒は被っていた防具をゆっくりと取り、黒鋼のそばに来た。
「やっぱり、集中できてないこと、分かりますか・・?そうだ、この機会に聞いてもらおう・・かな」
そう言って、少し思いつめた表情をした。
「何だ、悩みでもあんのか?」
すると生徒は、意を決したように、黒鋼を見た。
「・・黒鋼先生、ファイ先生と・・」
「!」
思わず竹刀を落としそうになった。
みみみ見たのか?!見られたのか?!どこで何を。思い当たる節が多すぎる。まさかアレか。
ひと気がなかったからって、廊下でなんてヤらなきゃよかった。あいつも本気で嫌がってたし。
「・・仲、いいですよね・・」
遠回しに聞いていくつもりなのだろうか。何て言い訳すればいい。
それは俺の双子の弟だ!俺じゃない!
「それで・・仲を取り持ってほしいんです!」
「は?」
「僕、ファイ先生が好きなんです・・!」
つまり。
黒鋼はファイと友達なので、ファイに話をつけて自分との仲を取り持ってくれないかと。
俺らの関係には全く気付いていなかった。
俺としたことが少し動揺してしまった。
ファイにはいつも時と場所を選べと文句を言われているが、一応これでも、絶対人はいない、という時に
ヤっているのだ。そう簡単にバレるわけはない。
生徒の顔を見ると、少し涙目になっている。俺は他の部員に「しばらく自主練してろ」と伝え、
そいつを武道場の裏に連れ出た。とりあえず話を聞いてやることにする。
こいつのクラスはファイが受け持ってない為、たまに俺に会いに武道場に来るファイを遠くから見ること位しか
できないらしい。綺麗で、優しそうで、憧れて、ついに自分の飼い猫の名前までファイにしてしまったそうだ。
相当である。
「・・で、何だ。お前、ファイと付き合いたいのか」
すると、生徒は赤くなってぶんぶんと顔を振った。
「そっそんな、とんでもないです!ただ、一度でいいから二人でお話して・・みたいなって・・」
それからそいつは俯いた。
「変・・ですよね。男同士なのに・・」
お前が変なら、さっきまでヤツとやってた俺はどうなる。ウルトラ変。
「や、そういうのは関係ねぇと思うぜ」
だと信じたい。
「・・黒鋼先生は優しいですね」
「・・・。話くらいなら、いいんじゃねぇか。連れて来てやるよ」
「ほ、本当ですか?!」
生徒は目を輝かせた。真剣に、ファイに憧れているらしい。
その時俺は、こいつの切ない心情を慮り、気の毒に思い、協力してやろうと思っていた。
話だけでもと言っているが、まあ本心としてはファイと付き合いたいのだろう。
しかし、ファイは俺のことが好きなのだ。想いが叶うことはない。
その時俺はまだ、教師らしい心情を持ち、こいつに同情などする余裕があったのだ。
ファイが突然この場に来るまでは。
「くーろたん先生♪ここにいたんだねー」
この場に似つかわしくない能天気な声がして、振り向くとファイがいた。
しかし、俺達の驚いた表情を見て、ファイは思わずといった風に1・2歩後ずさった。
「あれ・・ごめんね、何か大事なお話してた・・のかな?」
回れ右をしようとしたファイを引き止める。
「いや、ちょうどいい。こっちに来い」
「なぁに?ちょうどいいってー」
いつもの笑顔を浮かべて歩み寄ってくる。
・・さっき科学室で、あんな表情してたのに。
切なげに眉を寄せて、苦しげな吐息で。
君部活でしょ、それにこんな所で、などと嫌がったわりには、細い腕でしがみついてきた。
何事もなかったかのように傍に来たファイは、俺の隣にいた生徒の顔を見て驚いた。
「あーっ!見つけた!!君、剣道部だったんだー!!」
「何?」
「オレよく武道場来てるじゃない、一言掛けてくれればいいのにー。防具被ってるから、分からなかったよー」
「待て!知り合いなのか?」
どういうことだ。そんなことは聞いていない。
「ぼ・・僕の事・・覚えて・・」
真っ赤だ。泣きそうである。
なんでも。
数ヶ月前の雨の日、校門前に子猫が捨てられていたそうだ。
ファイがそれを見つけ、濡れた子猫を抱いて困っていた。このままじゃ死んでしまう、でも自分の家は
マンションだから飼えない。
そこへ通りかかったこいつが事情を察し、「僕飼います!」と奪うように猫を連れて行ったのだそうだ。
相当な猫好きと思われる行為である。
それか。ファイと名付けた飼い猫は。
「あの時本当に助かったから、ずっとお礼が言いたかったんだー。にゃんこは元気?名前何にしたの?
見に行きたいなー」
みみ・見に行くだとォ?!恐ろしいことを言うな!
こいつはお前のことが好きなのだ。男子高生がどういうものかちゃんと分かっているのか。
毎晩お前で抜いてるんだこいつは。
そうだ。考えてみれば腹が立つ。俺のファイを空想でも汚すな!
大体。
そんなことがあったなんて、俺はファイから聞いていなかった。何で俺に言わないんだ。
自分が先生であるということを忘れてきた。追い討ちを掛けるように、
「顔赤いね。どうしたの?」
ファイは細い首を傾げて生徒を覗き込んだ。恋する男子高生は、失神寸前である。
ファイの絹糸のような金の髪が、サラリと揺れた。アイスブルーの宝石のような瞳は、
さっき少し泣かせたせいか、潤んでいるように見えた。
こ い つ の 前 で そ ん な 表 情 す る な
「ファイ!」
思わず叫ぶと、
「黒たん?」
瞬間に目線をこちらに移した。まるで、男子生徒なんかいなかったかのように。
「・・・俺は部活見てくるから、少しそいつの相手しててくれ」
二人を残して、俺は武道場の入り口へ向かった。
ー少し、おとな気なかっただろうか。
迷わずこちらを向いたファイに、優越感を覚え、やっと落ち着いてきた。
勝つも負けるも、ファイが俺のことだけを好きだなんて、分かりきった事なのに。
どうして俺は、あいつの事になるとこんなにむきになってしまうんだろう。
30分もすれば二人とも戻ってくるだろう、そう思いながら部活指導をしていたのだが、予想に反し、二人は
2時間たっても戻ってこなかった。
19時半、部活が終わった。何でこんなに遅くなる?何をやっているんだ。
まさか、本当に猫を見に家まで行っているのだろうか。家になんか入れやがったら・・あの野郎・・ただじゃ・・!
終わりの挨拶もそこそこに、先ほど二人をおいてきた武道場の裏へ急いだ。
「黒鋼先生ーっ!!!」
すると、当の生徒本人が全速力でこちらへ向かって走って来た。
なんだ、ずっと裏にいたのか。ちょっと安心したが、こんな長時間ふたりきりで何をしていたのか。
問おうとすると、生徒はそのまま突進して俺にぶつかって来た。
「うわっどうした!」
「先生、僕もう死んでもいいです!ファイ、ファイ先生が、あんなこと、してくれるなんてっ・・。
幸せすぎて、おかしくなりそうですっ・・。僕、もう帰ります!黒鋼先生、ありがとうございました!さよなら!」
顔を赤くして、泣きじゃくりながら生徒は走り去って行った。
何 を し た ! ! ! !
「あっ黒たんせんせーい、ごめんねぇ、遅くなっちゃってー」
のんきな声がして、さっき生徒が来た方向からファイがとことこと歩いてきた。
ずかずかとファイに近寄り、思い切り抱きしめた。
「痛いよーう。どうしたの?」
「何された!!」
「え?」
「あいつにどこを汚された?!」
「・・・」
ファイの肩を抱いて体から少し離すと、ファイは猫のようにそのままするりと俺から抜け出した。
「・・違うよ、オレがしたの」
そう言って、ファイは口元だけで微笑んだ。
「な・・?」
「だって、可愛かったんだもん。彼、オレのことが好きなんだって。真っ赤になって、泣きそうでさぁ。」
挑戦的な目で、俺を見た。
「でも、オレは黒たんのものだし?だからせめて。だって、かわいそうでしょう?」
白く細い指で、俺の唇をたどった。
まさか。嫌だ。嘘だと言ってくれ。
「だからぁ、してあげたんだぁ。アレを,、優しくね・・何か分かる・・?」
「何・・を?」
頭なでなでを。
「ふざけんなァァァァァァァァァァァァァァー!!!!!!」
ちゃぶ台があったら、速攻でひっくり返していたところだ。
「あっはは、ごめーん。黒たん真剣なんだもん、ちょっとおどかしちゃったvv」
「殺されてぇのか!!」
よ、よかった。体の力が抜けた。恐ろしい想像をしてしまった。
「ずっと猫の話とかしてただけだよー。もう部活も終わる時間になったから、じゃあね、てあの子の
頭撫でてあげたら、うれしい、ありがとうございますって、泣き出しちゃってさー。頭なでなでされて、
そんなにうれしいものかな」
しかしよく考えると、他の男の頭を撫でるという行為も何だか気に食わないものだ。
「お前あんまり頭撫でたりするな」
「なぁに?やきもちー?だーいじょうぶ、黒たんはもーっと、撫でてあげるvよーしよーし♪」
そういってファイは背伸びして、俺の頭を撫でた。
「いらん!!」
怒鳴りつつも、その手をどかさない黒鋼であった。
結局。
それからというもの、その生徒はファイが武道場に来るたび挨拶やちょっとした会話ができるようになり、
本当に幸せだ、と黒鋼に深く感謝しているようだった。
並外れた美貌な上、彼にとっては先生である。そんな立場もあって、本当に話さえできれば満足なようで、
余り大それた夢は持っていないようだ。一安心である。
「おまえ、気を付けろよ。色んな奴に狙われてるぞ。何かあったらすぐ言え」
科学準備室でファイに淹れてもらったコーヒーを飲みつつ注意すると、
「うーん?」
椅子の背にもたれ、反り返って遊びつつ、ファイが気の抜けた返事をした。
「真面目に聞け!俺は心配してるんだ」
「でもさー、黒たんも狙われてるよ。黒りんを好きな女生徒、いーっぱいいるもーん」
「・・そうなのか?」
「オレ、君と仲いいでしょ。だから、よく言われるんだー。黒鋼先生との仲取り持って下さぁいvって」
そう言って、ファイはこちらに向き直った。
「誰も通さないけど。」
目が笑っていない。
「・・こ、殺したりするなよ・・?」
「あはは、やだなー、うまくかわしてるだけだよー」
奴の冷たい目を見て、一瞬その女生徒を惨殺する姿が浮かんで肝が冷えたが、さすがにそうまでは
しないようだ。
予鈴が鳴る。そろそろ行かなくては。
「じゃな、コーヒーごちそうさん」
窓から出て運動場に向かおうとすると、ファイの華奢な指が、俺の上着の裾を掴んだ。
「がんばってねー、黒鋼せーんせv」
金の睫毛が長い。蒼い宝石のような瞳で、上目づかいに俺を見た。
ああ、可愛くてくらくらする。
あの生徒の一件といい、俺は自分が思っている以上にこいつが好きなようだ。
こいつも、さっきの様子からいって、俺が思っている以上に俺のことを好きなのかもしれない。
窓からひらひらと手を振るこいつを、もう一度抱きしめたかった。
秘密の恋も、意外と楽しいものだ。
今日も学園は平和である。
おしまい
ブログに載せようとしたら長くなりすぎて、結局ノベル置き場に移しました。
堀鐔学園イイ!!小狼があくまで真剣で、聴いてて一人でちょっと笑ってしまった・・。
ファイの、『黒たん先生ーvおいでおいでーv』にめろめろです。んもう、犬のようだと文句言いつつ引き寄せられる
黒鋼の気持ちがよく分かるよ!あんな可愛く呼ばれたら、どこへでも駆けつけてしまうさ!!!
個人的にツボなのは、ファイ先生の蒼い腕章。白衣に腕章ってかっこいいですねぇ。
これつけたままエッチするんですねぇ。(うっとり)
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