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魔物退治のお坊さん・訪問編

昔ある所に、生まれつき体が悪く、それ故大層苦労してる男がいました。
どんな医者に診せても全く治らず、困り果てた男はお寺の住職に相談しました。
住職が言うには、体が悪い原因は男に獲り付いている魔物にあるとのこと。
それが相当厄介な魔物らしく、簡単には払えないらしいのです。
ある寺に魔物退治専門の霊験あらたかな高僧がいて、そのお方なら払えるだろう、
そう聞いた男は藁にもすがる思いで、そのお寺に向かったのでした。

悪い体を引きずり、寺への遠い道程を男はひたすら歩きます。疲れ果て、足取りは覚束ません。
(・・・・本当に、この体を治してくれる、そんな高僧がみえるのだろうか・・)
今まで何をしても駄目だったというのに。
いやきっと、仏のような僧が自分を救って下さるはずだと頭を振り、男はまた重い足を動かしたのでした。

「ここだ!」
どれ位歩いたでしょう、やっと高僧がみえるというお寺にたどり着きました。
魔物から開放され、元気になった自分を思い浮かべ、門をくぐるー
と。
突如目の前に影が落ちました。
不思議に思って見上げると、なんと目の前に恐ろしく人相の悪い、しかも大きな刀を抱えた大男が
立ち塞がっていたのです。
男は腰を抜かし、尻餅をつきました。
「わあ!!盗賊!!ど、どうか命だけはお助け下さい・・!」
「何言ってんだお前」
よくよく見ると、着崩した赤い派手な着物は、袈裟のように見えました。
数珠のようなものも首に下げています。頭は剃ってませんが、手にした刀は人を斬るものというより、
剣舞にでも使えそうな、美しい装飾が施されているものでした。
きっと、この寺院の門番をされている方なのだろう。
安堵の息を漏らした男は、何とか立ち上がり、その大男に向き直りました。
「し、失礼しました。実は、この寺院に黒鋼様という高僧がみえると聞いて来たんですが・・」
「何か用か」
「え?その、黒鋼様はおみえに・・」
「だから黒鋼は俺だ。何か用か」
まさか、仏というよりむしろ魔物に見える、この男が黒鋼様?
あの住職の話は間違っていたのだろうか?こんな盗賊のような僧に、とてもじゃないが
お祓いなどできるとは思えない、そう男が逡巡していると、
「ーああ、それか」
僧は目を少し細めて刀を構えました。
「え?」
不意に悪寒を感じて振り向くと、そこには見るもおぞましい巨大な魔物が姿を現していたのです。
「うわあ・・っ!!」
「これがお前に憑いてたモンだ。
この寺には魔物を具現化させる術が仕掛けてあるんだよ。姿が見えねぇと斬れねえから」
魔物を祓うんじゃなく、斬るというのか?!こんな化け物をどうやって、と思う間もなく、
一刀、真っ二つになった魔物は大きな音を立て地面に倒れました。
「わあっ!」
「まだいんのか」
見回すと、さらに何匹も魔物が増えています。
「くっ黒鋼様!お助け下さい!」
「めんどくせぇなぁ」
「ええ?!そうおっしゃらず!!」
僧は刀を肩に担ぎ、空いた方の手で二・三印を結びました。
と、鈴を転がしたような音が響き渡り、空から涼やかな風が吹き降ろして来ます。
見上げると、なんと白銀の竜が舞い降りて来ました。
銀の鱗が仄かに発光し、この世のものならぬ美しさです。
息を呑んでいると、僧は何でもなさそうな表情でちらりと竜を一瞥し、
「お前半分やれ」
とだけ言って、目の前の魔物に斬りつけました。
すると竜がくるりと一回転、瞬く間に人の形になったのです。
男は目を見張りました。
透き通る白い肌、光り輝く髪、澄んだ空色の瞳。
白い、瀟洒なつくりの袈裟のような着物を着ていて、尋常ならざる美しさ・・。
「なんだぁ黒たん、デートのお誘いかと思ったら、いきなり魔物退治なのー?」
華奢な指で空を切ると、竜人の前の魔物が青白い炎に包まれす。魔物は苦しげな雄叫びを上げました。
「式神のくせに文句言うんじゃねぇ!大体おまえ妙な呼び方するなといってんだろうが!
ご主人様と呼べ!」
僧は式神を睨み付けながら、魔物から刀を引き抜きました。
とてもふざけあいながら戦える相手ではないずなのですが、ものの3分も立たないうちに
力尽きた魔物の山が出来上がっていました。
「いっちょあがりー♪」
式神はうれしそうに言って、ぴょんと飛び跳ねました。金の髪がふわりと揺れます。
そして魔物の山にふいと息を吹きかけると、それは砂のように崩れゆき、空へと消えていきました。
「じゃ、おまえもう帰れよ」
「ええーっひどいー。オレがんばったのに、ご褒美くれないのー?」
式神はふわりと浮き、その細く白い腕を僧の逞しい首に絡ませました。
体格があまりに対照的で、何だか艶かしい。
式神がこんなに美しいものなら、是非自分も欲しいものだ。
などと思っていると、ふと、体が嘘のように軽くなっていることに気が付きました。
どこも痛くないし、苦しくない。そんなこと、生まれて初めての経験です。
二人が、自分に憑いていた魔物を倒してくれたからでした。
「ありがとうございました!!」
「ああ、おまえもさっさと帰れよ」
式神の腕を首に絡ませたまま、僧はしっしと払う様に男に向けて手を振りました。
「お陰で体が羽根のように軽くなりました!是非お礼をさせて下さい!」
「いらねぇよそんなもん」
「そんなわけには・・!」
「あんなモンが憑いてたんだ、今までろくに働けなくて、貧しい暮らししてたんだろ。
どうせ貰うもんなんかねぇよ。家でお袋か誰か心配してんだろ。とっとと帰って元気な姿見せてやれよ」
「黒様やっさしーV」
「おまえは黙ってろ!」
やんやと騒ぎつつ、二人は寺の奥へ消えて行ってしまいました。

本当に高僧だ。
男は、二人の消えた寺に向かい、心から頭を下げたのでした。

おしまい




て、いう物語がみえたよコミックス4巻表紙!!え?一緒にいるの小狼じゃないかって?
ばかもーん、あれはただの通り掛かりだー!本当に一緒にいるのはファイたんなんじゃー!!(やけくそ)

おまけ。
御主人様に向かって黒たん呼ばわりの式神ですが、ご主人様と呼ぶ時もあるんです。
挿れられてる時(例のご褒美ですな)、苦しげな吐息で、でも愛しげに、「ごしゅじんさま・・」て言うんです☆


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