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クロゴン物語
<拍手お礼4>
クロゴン物語@
『クロゴン現るの巻』


ここは、いつも平和な堀鐔学園。ただ今、皆大好きランチタイム。
厳しいが優しいところもある体育教師は、金髪の麗人が常駐する化学準備室に来ていた。

「はーい、黒たん先生、あーんしてーv」
「誰がするか!自分の分は自分で食えば・・っ」
“ば”のところで、口に玉子焼きを突っ込まれた黒鋼。
「どお?おいしいー?じゃ、オレにもあーんしてーv」
「もが・・てめえ、人の言うことを・・!」
と言われているそばから、黒鋼が箸で摘んでいた唐揚げをひょいとくわえたファイ。
「うーん、おいしーいv、って、自分で作った唐揚げなんだけどね♪」
「てめ・・最後の唐揚げを・・!」

お互い、一人暮らしをしている。
黒鋼はいつも、お昼ご飯に握り飯しか持って来ていなかった。
それ見て栄養の偏りを心配したファイは、彼にお弁当を作ってきてあげることにしたのである。
これは、皆には内緒。化学準備室で二人きり、愛のこもった手作りお弁当。
平和な堀鐔学園の中でも、さらに輪をかけて平和な風景だ。

しかし、平和なのも束の間。
その日、堀鐔学園史に名を残すほどの、大事件が起きてしまうのである。

「・・なんか、外が騒がしくねえか?」
「そおー?」
ファイが耳を澄ますと、廊下を駆ける音と共に、突然化学準備室のドアが開いた。
「ファイ先生!大変です!!ふたりでラブ弁当なんか食ってる場合じゃないです!!」
「うわ!ノ、ノックしろよ!ラ・ラブじゃねえし!!」
「小狼君、よくオレがご飯の上にLOVEって書いたこと、分かったねえー」
「ファイ先生は、嫌がらせでそういうことをしそうですので」
「嫌がらせだったのかよ!!」
「そんなことはどうでもいいんです、窓の外を見て下さい!」
小狼に窓の外を指し示され、怪訝そうに外を覗いてみる二人。
「えー何何ー?・・て」
「わあー!!何だアレは!!」
人の背丈より大きな足、巨木より太い尻尾。それは地面を揺るがしながら歩き、
「がおー!!」と雄叫びを上げた。
「すごおい!!グラウンドに怪獣がいるぅー!!」
「校舎踏もうとしてるじゃねぇかー!!!」
「そうです、そして怪獣の顔をよく見てみて下さい」
「え?ああーっ!黒たんにそっくりー!!」
そう、その怪獣は、体育教師を2頭身にして、そのまま身長を50メートルに引き伸ばし、
怪獣の着ぐるみを着せたような外見であった。
「そうなんです、生徒の間で、あれはクロゴンと名付けました」
「勝手に名付けんなよ!!」
「すっごい可愛いーー!!!オレあれ飼いたいーー!!!!」
「勝手に飼うなよ!!」
「オレ、近くに寄って見てみるーーっ!!」
「生徒を引率に行かんかーーー!!!」

早速グラウンドに出、クロゴンに駆け寄ろうとしたファイ。
クロゴンは、地域住民の通報により、機動隊に包囲されていた。
「大変!クロゴン、撃たれちゃうー!!!」
少し遅れて、黒鋼もやって来た。
「ったく、おまえの受け持ちの生徒も避難引率してきたぞっ」
「黒りん、クロゴンがピンチなの!助けてあげて!!あの子、黒りんの親戚でしょー?!」
「あんな親戚いねえよ!!!!」



<拍手お礼5>
クロゴン物語A
『クロゴンを飼うの巻』


迫り来るクロゴン!
何とクロゴンは、さっき黒鋼が1時間もかけて並べた、体育用コーンを全部倒してしまった。
その上目からビームを出し、黒鋼の車をひっくり返した。
「てめー!!!俺ばっか被害が集中してんじゃねーかーッッ!!!!」
クロゴン大暴れである。ファイはその様子を、微笑ましく見ていた。
しかし!ついに機動隊が、戦車の大砲をクロゴンに向けた!
「撃っちゃダメぇー!」
クロゴンと戦車の間に、立ち塞がるファイ。
「ファイ先生!その怪獣、凶暴です!早く離れて下さい!」
「違うの!本当のクロゴンはいい子なの!優しい子なの!
だって黒たんもああ見えて、えっちの時はすっごく優しいんだよ!!!」
「いらんこと大声で言うんじゃねェェーーーッッッッ!!!!」
「優しいんですか」
「ほっといてくれ!」
するとクロゴンは、“目からビーム”の照準をファイに定めた!
「危ねぇ!ファイー!戻って来ーいっ!」
しかしファイは、逃げるどころか・・クロゴンの、丸太よりも太い足に、そっと抱き付いたのである。
「がお・・?!」
戸惑うクロゴン。
「大丈夫、クロゴン。きっと君は、周りに人間がいっぱいで、怖くて、暴れてるんだよね。
大丈夫、怖くないよ。オレがいるから・・」
「が・・」
クロゴンの紅い瞳に、うっすらと涙がたまった。
そして何と、しゅるしゅると音を立て、クロゴンは縮み始めたのである。
周りのどよめきとともにみるみる縮み、ついにはファイの掌にすっぽりと収まるほどになった。
「これは一体、どういうことだ?」
集まってきた機動隊や野次馬に、ファイは言った。
「多分、これがクロゴンの本来の姿です。間違えて人間がたくさんいる所に迷い込んで、
パニックを起こしてしまった為、巨大化し、暴れていたんだと思います」
そうだよね、クロゴン、と掌の中の小さな怪獣に囁くと、クロゴンは小さく頷いた。
人々は納得し各々帰って行き、そこにはファイと黒鋼、そしてクロゴンが残された。
クロゴンは、大暴れして疲れたらしく、じき丸くなってすやすやと眠りだした。
黒鋼を二頭身にして体長10pほどに縮め、怪獣の着ぐるみを着せたような、クロゴン。
ファイは掌のクロゴンに、愛しげに頬に寄せた。
「可愛いな♪大切に飼おっとv」
嫌な予感がした黒鋼。予感は的中するのである。

その日の夜、ファイのマンションに行った黒鋼。
「黒たん、見て見てー!!」
ファイに促され見てみると、クロゴンは、人形用の小さな茶碗で、意外と器用にご飯を食べていた。
「ねっ、いい子でしょ?さっき人形用のバスタブでお風呂に入れてあげようとしたら、
恥ずかしがってねー、結局一人でお風呂入ったの。お風呂も一人で入れるなんて、すごいねー!」
ファイの指がクロゴンの頭をなでなですると、クロゴンはちょっと赤くなった。
「それより・・俺の飯は」
「あっ、机に用意してあるから、あっためて食べてくれるー?
オレクロゴンの世話があるからー」
「・・・。」
昼みたいに、あーんしてくれとは言わないが。
ファイが、お相伴に預かってくれないのは、初めてである。
ご飯を食べるクロゴンを、ファイは、頬杖を付いて楽しそうに眺めている。
その視線は、いつも黒鋼に向けられていたものだ。
・・・クロゴンめ。何となく腹が立つ。
黒鋼はファイのあごをすくい、ぐいとこちらに向けた。口付けようとすると、
「だめーっ!クロゴンが見てる!!教育上よくないよーっ!!」
拒否されたのは、初めてだ。見ると、クロゴンがきょとんとした目でこちらを見ていた。

ファイがクロゴンを大事にするのは、自分に似ているからだ。
そう思って、ぐっと堪えた黒鋼であったが。
数日後、ついに彼はキレた。

その夜ファイのマンションにやって来た黒鋼は、部屋に入るなり後ろからファイを思い切り抱き締めた。
「痛ーいっ!ダメ黒たん、今クロゴンを寝かしつけてるからー!」
クロゴンは、人形用の小さなベットで、寝息を立てているようだ。
黒鋼は、抱きしめる手にさらに力を込めた。
「てめえ・・学校でもクロゴンポケットに入れて、そうやってダメダメと・・!
もう1年何にもしてねぇぞ!いい加減にしろ!!」
「1年て・・まだ3日だよ黒りんーっ」
黒鋼体感1年。我慢も限界である。
「いたいよーぅ!分かった、分かったから離してー!せめて隣の部屋で・・っ」
それを聞いて、ファイを隣室へ連れて行く黒鋼。
「クロゴン、大丈夫かなあ・・いつも、一晩中そばにいてあげないと、寂しがるんだよね・・」
引きずられつつ心配するファイ。
黒鋼が閉めた隣室の扉を、ファイはちょっと開けて、クロゴンの様子を覗いた。
「心配しなくても、寝てるだろーが」
そう言って黒鋼も覗いた時、クロゴンが起き上がった。目が覚めたようだ。
ファイが近くにいないことに気付いたクロゴンは、ベットから降り、きょろきょろとファイを探している様子だ。
しばらく探したが、ファイが見つからず、うつむいたクロゴン。
クロゴンはとぼとぼと隅へ行き、項垂れたまま、体操座りをした。

「ごめん!クロゴン!!オレはここにいるよー!!」
思わず部屋を飛び出し、クロゴンを抱き上げたファイ。
クロゴンはファイを見て、ひしとその指にしがみついた。感動の再会である。
「てんめぇ・・・っ」
「だって黒たん、この子寂しがってるんだもん・・!かわいそうでしょー?!」
黒鋼は、クロゴンを大事そうに抱えるファイを睨み付けた。

「・・・・・・俺だってなぁ・・・・・・っ」
拳を震わせ、黒鋼は叫んだ。
「俺だって寂しいんだっっっ!!!!!」
「・・・え?」
「・・・あ」

思わず口走ってしまった本音は、もう取り消せない。
「や・・違・・」
口篭る黒鋼に、ファイは嬉しそうに飛び付いた。
「もー!ふたりとも可愛いんだからー!!大丈夫っまとめて抱きしめてあげられるから♪
二人とも、おいでーvvvよーしよしvv」
「ち、違うって・・!」

結局、その晩は、3人で川の字になって眠ったのであった。
寝息を立てるクロゴンの上で、黒鋼とキスをして、ファイは幸せってこういうものなんだな、と思った。


しかしークロゴンとの別れの時は、刻一刻と迫っていたのである。



クロゴン物語3
『さよならクロゴンの巻』


「てめ!なにすんだ!!」
ファイの細い顎を掬った黒鋼の手は、クロゴンの『目からビーム』によりほんのちょっぴり火傷した。
「がお!」
ファイの肩に座っていたクロゴンは、黒鋼にあかんべをし、ファイの首に抱き付いた。
しかもこれ見よがしに、ファイの白い首にちゅっとキスをするクロゴン。
「てんめぇ!ぶっ殺すぞ!!」
叩き落としてやろうかと思った黒鋼であったが、あんまり派手なことをするとファイが
弱いものいじめはダメーと怒るので、デコピンしてやった。
デコピンされたクロゴンは、しばらくの間小さな手で額を抑えてうずくまっていた。
しかしキッと黒鋼を睨み付け、果敢にも飛び掛り(意外とジャンプ力があった)、小さな牙で黒鋼の指に噛み付いた。
「やる気かてめえ!!」
「がおーっ!」
「本当に二人とも仲良しだねーv」
「よくねぇよ!!!」

クロゴンがやって来て、早3ヶ月。
黒鋼とクロゴンの小さな攻防が巻き起こりつつも、3人は楽しく暮らしていた。

そんなある日。
「黒たん、大変なの!クロゴンが倒れたの!!すぐに来てー!!」
真夜中、ファイのそんな切羽詰った電話を受けて、黒鋼はファイの家へ急いだ。
ドアを開けると、ファイが涙の溜まった目で飛び付いてきた。
「クロゴン・・クロゴンがー!」
クロゴンは、人形用の小さなベットに寝かされていた。
その額には、畳まれた小さな冷タオルが、ちょこんと置かれていた。
確かこの前ファイが、クロゴンが湯船につかる時に頭にのせてあげようと言って、小さなタオルを作っていた。
まさかこんな所で役に立つなんてと、ファイは切なげな顔をした。
「クロゴンさっきまで、元気にしてたの。なのに突然ぐったりしちゃって・・額も、すごく熱いの。
こんな小さな体なのに、すごく苦しそうで・・どうしよう、黒たん・・」
今にも泣き出しそうなファイ。
クロゴンをそっと手に取ってみると、確かにその体はいつもよりずっと熱い。
声を掛けても、息を吐くのが精一杯のようだ。
「こりゃ、病院連れてった方がいいんじゃねぇのか」
「うん、急患だから、休日夜間に行こうと思って・・。でも・・動物病院でいいのかな・・」
「た・多分・・怪獣だし、動物病院でいいと思うが・・」
休日夜間動物病院に急ぐ二人。ファイはクロゴンを大事に両の手の平で包み、もうすぐお医者様が
治してくれるからね、と励ましていた。
しかし、震えるファイは、クロゴンに言うよりも、自分に言い聞かせているようにも見えた。

動物病院に着くと、ペットの名前、種類、症状など記入する紙を渡された。
どうやら名前は、ペットの名前の前に飼い主の苗字を付けて記入するらしい。
ファイは真剣に、『クロゴン・D・フローライト』と記入していた。
「・・おまえ、結構立派な名前もってたんだな・・」
クロゴンにそう話し掛けていると、更にファイは種類の欄に『クロゴン』と記入した。
どうなるのか様子を見ていると、看護婦に提出したファイは案の定
「まじめに記入して頂かないと困ります」
と軽く説教されていた。ファイは必死に、クロゴンはクロゴンという生き物なのだ、自分は至って真面目であると説得し、
何とか診察室に入れてもらえた。

色々調べたもののクロゴンが一体何なのか分からず、故に治療法も調べようのない獣医は、
ついに結論を出した。
「こんな変なモン飼わんで下さい」
文句を言おうとした黒鋼だったが、ファイはショックを受けたようだ。
「そんな・・!!」
「概して小さな動物は、寿命も短いものです。もう寿命なんじゃないですか。
せめて最後は、家族で見取ってやって下さい」
いい加減すぎる。
今度こそ文句を言おうとした黒鋼だったが、ファイは大ショックを受けたようだった。
病院から出ると、ファイの瞳からついに堪えていた涙が溢れ出した。
ファイは嗚咽を漏らしながら両手で包んだクロゴンに頬擦りをし、
「クロゴン、死んじゃイヤ・・」
と大粒の涙を零した。何も死にゃしないだろうと思っていた黒鋼だったが、
ファイの手の中のクロゴンを覗き込んでみて、事の重大さに気が付いた。
クロゴンの容態は刻一刻と悪くなっており、もう、ほとんど息をしていなかったのだ。
これは・・。
一瞬、体が冷えた。
多分もう駄目だ。
小動物は、突然ころっと死んでしまうものだ。
ずっとクロゴンを抱いていたファイは、もう駄目であると気が付いていたのだ。
クロゴンを手に泣きじゃくるファイをそっと抱き締めると、ファイは途切れ途切れに言葉を口にした。
「オレ・・オレね、クロゴンのこと・・自分の子供みたいに・・思ってて・・
一緒にご飯食べたり・・授業中もポッケの中でおとなしくオレの事見てて・・
すごく可愛くて、黒たんも3人で、ずっとずっと一緒にいられたらなって・・思ってて・・」
そこまで言うと、ファイは声を上げて泣いた。
ファイの手の平の中で、クロゴンは眼を閉じたまま動かない。もう本当に、駄目かもしれない。
「クロゴン。お前、好きなんだろ、ファイのこと?だったら、ファイを泣かすな!死ぬんじゃねぇ!」
黒鋼がそう叫ぶと、クロゴンはゆっくりと、薄く眼を開いた。
そして、ファイの指にそっと頬摺りをし、それからクロゴンに触れようとした黒鋼の指にも頬擦りをした。
まるで、今までありがとうと、お礼を言うかのように。

家に戻り、クロゴンをベットに横たえた。
「ごめんね・・クロゴン・・何も・・してあげられなくて・・」
眠るようなクロゴンに、ファイはとまらない涙を流しながら話し掛けた。
「クロゴンは・・オレと暮らして・少しでも・・楽しいって思って・・くれてたのかな・・・」
黒鋼は、ファイの頬を濡らす涙をぬぐってやった。
「当たり前だ。おまえがこんなに、愛してやったんだから・・」

俺だったら、幸せだ。

そう言って、黒鋼はファイを抱き締めた。

その時!!
横たわるクロゴンの頭上が、突然七色に輝きだした!
「?!な・何?!」
驚く黒ファイ。
その時、その光を潜る様にして、一匹の小さな妖精が現れたのである。
「えええ?!」
身長10cmほどで2頭身だったクロゴンに対し、その妖精は15cm位で8頭身だった。
透けそうな、白いふわふわの薄物を纏い、背中からは角度によって七色に光る4枚の薄い羽根が生えていた。
何を言っているのかは分からなかったが、その妖精は鈴のような声で倒れるクロゴンに話し掛け、
それからその小さく白い手をクロゴンの体に当てた。
クロゴンの体は7色に輝き、次の瞬間。
なんと!クロゴンが目覚めたのである!!
起き上がったクロゴンは、眼をぱちくりし、きょろきょろ周りを見渡した。
「ク・クロゴンーーーーっっっ!!!どこの誰だか存じませんが、ありがとうございますーー!!!」
感激したファイは、振り向いた妖精を見て、死ぬほど驚いた。
その顔は、自分そっくりだったのだ。
驚いていたファイは、気が付いていなかった。
その時、隣の黒鋼が物凄い顔をしていたことに。
黒鋼の、声なき声が夜空にこだました。
か・・・っ!!可愛いー・・・・・っっ!!!!

妖精は黒ファイに向けて、細い人差し指を立てた。
ふわりと黒ファイを7色の光が包む。妖精は、にっこり微笑んだ。
「今、翻訳魔法をかけました。オレの言ってること、分かりますよね?
この子の世話をしてくれて、ありがとうございました。
倒れたのは、環境の変化のせいだと思います。治癒魔法をかけたので、もう大丈夫」
さっきまで分からなかった妖精の言葉が、分かるようになった。
「え?え?一体どういう・・」
「オレもこの子も、別次元の住人なんです。オレが次元移動魔法の練習してたら、
この子が魔法陣にトコトコ入ってきちゃって、それでこの次元に飛ばされたんです。
やっと見つけた・・ごめんね。お迎え、遅くなって・・」
そういって妖精は、クロゴンを抱き締めた。クロゴンは妖精とファイを見比べて、きょとんとしていた。
ファイが二人いて、びっくりしているらしい。
「ふふ、きっと、ここにいる間、あなたのことをオレだと思っていたんですね。
本当に、ありがとうございました。黒鋼さん、ファイさん」
「お、俺らの名前をどうして?」
尋ねると、妖精は楽しそうに笑った。
「オレの名前もファイです。そして、この子の名前も黒鋼・・オレたちとあなた達は、別次元の同一人物です」
「えー?!そんなことって・・次元とか妖精とか・・信じられない・・!」
ファイは驚いていたが、それなら怪獣が現れた時点でもっと驚いておくべきだったのではないかと黒鋼は思った。
しかし黒鋼には、一つ解せないことがあった。
「うむ、そういうこともあるかもしれねえ。しかし引っ掛かるのは、
どうして妖精は8頭身で賢そうなのに、クロゴンは2頭身でバカっぽいんだ。クロゴンが
ファイのこと妖精と思いこんでたっつうが、大きさがぜんぜん違うじゃねえか。アホ過ぎる」
「仕方ないですよ、オレは百歳だけど、この子はまだ2歳なんです。幼児なんですよ」
「百歳ー?!おじいちゃんなのー?!」
「いえ、オレもまだ子供です。オレ達の種族は寿命が長くて、千年以上生きるんです」
千年。寿命なんて、まだまだ先だったらしい。あれはヤブ医者だったのだ。
「じゃあ、オレ達はこれで・・」
そういって、妖精はぺこりと頭を下げた。
「えっ・・もう、行っちまうのか・・」
名残惜しそうな黒鋼に、妖精は微笑んで、その羽根を羽ばたかせ、浮き上がった。
思わず黒鋼が手の平を差し出すと、妖精はその上にふわりと降り立つ。
重さ0グラムの妖精は、大きな瞳で黒鋼をじっと見た。
まだ子供だというのは本当なのだろう、ファイと同じ整った顔は、幾分幼かった。
人間で言うと、14・5歳か。
宝石のような蒼い瞳は零れるように大きくて、長い金の睫毛が影を落とした。
さらさらとした金の髪は、ファイより長めで、細く白い肩に流れる。
妖精は、透き通るような、細い細い足を折り、黒鋼手の平の上にぺたんと座った。
よく見ると、その華奢な身体を包むふんわりした羽衣も、角度によって七色に光っていた。
ゆっくりと、薄い羽根が羽ばたかれる。4枚羽根は、キラキラと煌いた。
「この子、大きくなると黒鋼さんみたいな顔になるんだね・・。かっこよくなっちゃうんだ?」
なんて言って、ちょっとその白い頬を赤らめ、小首をかしげた。

やべえ、食っちまいてえ・・!

凶悪なまでに可愛らしい。妖精の乗る、その手の平が震えた。あんまり可愛くて、丸呑みしてしまいたいぐらいだ。
妖精は、黙りこくる黒鋼に対し不思議そうな顔をしていたが、隣にいた恋人にはその気持ちが伝わったようだ。
「黒たん・・この妖精に、悪戯でもする気なんでしょー?!このロリコンーっ!」
「ロリ・・っお、おまえだって、さんざんクロゴン可愛がってたじゃねーか!!」
「オレは母親の気持ちで可愛がってたのー!黒たんみたいに、邪な気持ちじゃないもん!」
そんな黒ファイを見て、妖精は楽しそうに笑った。
「よかった。この世界でも、オレ達は仲良しなんだね」
そう言って再び羽根を羽ばたかせると、羽衣が空気をはらみ、その細い身体はふわりと浮き上がった。
クロゴンの隣に降り立った妖精は、小さな手で、クロゴンのさらに小さな手を握った。
クロゴンは妖精を見上げ、嬉しそうに尻尾を揺らめかせた。
「じゃあ、これで。本当に、お世話になりました。ほら、バイバイは?」
クロゴンが手を振ると、妖精とクロゴンはまた7色の光に包まれ、そして消えていった。

「行っちゃったぁ・・」
ちょっと涙ぐんだファイの手を、黒鋼が握った。
「でも、よかったじゃねえか。クロゴン元気になって。本当に」
「そうだね・・。・・ねえオレたち、他の世界でも一緒にいるんだね。
もっと他の世界でも、一緒なのかな?何だか運命感じちゃうなー」
「運命以外の何だって言うんだ。どの世界に行っても一緒だろ」
そんなことを当然のように言う黒鋼が、ファイは嬉しかった。

妖精とクロゴン。
保護者チックな妖精であったけれど、きっと成長したクロゴンと妖精は、恋に落ちるのであろう。
オレ達みたいに。

「98年かぁ・・」
「何が?」
「妖精は、クロゴンと出会うまで、少なくとも98年はかかったんでしょう。長いよね。
その間、さみしく、なかったのかなって」
「大丈夫だろ。・・会えたんだから」

そうだね。オレも黒たんと会うまで、色々あったけれど・・会えたから。
だから、黒たんを知らなかった日々も、それもまた、よかったんだと思う。

「クロゴンたちと、また、会えるかなあ・・」
「案外、また遊びに来るかもしれねえぞ。クロゴン、おまえに懐いてたしな」
「ふふ、黒たんは、妖精に会いたいんでしょー?」

それから。
学園の生徒の間で、化学準備室に行くとたまに、小さい黒鋼と小さいファイの姿が見ることが出来るとかいう噂が
流れたとか流れないとか・・・。

クロゴン物語・完
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