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魔物退治のお坊さん・誘惑編

月が、欠けてゆく。



「おっかしいなぁー・・」
薄藤から薄紅へとゆらゆら彩を変えてゆく、透明な空。
無数に散りばめられた氷蒼の星々は、冷たい風にちらちらと揺れ、光を散らせながら泉へと舞い落ちる。
ここは天界。精霊達の住まう世界だ。
天界とは言え、地上からいくら目を凝らしてもその世界を見ることは出来ない。
入り口が天にあるというだけで、ここは地上とは異次元の世界なのである。

朧に光る硝子色の木に腰掛けたファイは、自分の白い手を改めて眺めた。
黒鋼とはまるで違う、細い指。いつもより、頼りなく見えた。

最近、力が弱まっている。

小さなため息をついて、虚空を仰ぐ。頭上には、晧晧と輝く銀の三日月。
天界と地上とでは、共通するものがたったひとつだけある。それは、月の満ち欠け。
地上の月が欠けゆけば、天界の月も欠けてゆく。
理由はよく分からないけれど、天界と地上は元は同じひとつの世界だった名残、という説もある。

精霊の力は、月の満ち欠けに左右される。満月は力が満ち、新月は力が弱まる。
神の使いという位を放棄したファイ。
その罰として、霊力を半分、封印された。
力を半分封印されてから、月の負の影響を直に受けるようになっている。
つまり、新月時、ほとんど力が使えない。
それはだんだん顕著になっていった。
指の先に神経を集中する。しばらくしてようやく、仄かな蒼い光が灯った。
「これじゃ、強い魔物とは戦えないなぁー・・」

透き通る薄紅へと彩を変えた、静かな空を見上げた。
欠けた月の、その向こう。
月に向かって遥か上空へと上がってゆけば、じき神の宮殿への扉がある。
その扉をくぐれば、そこは天界とは異なる次元。神の宮殿は、天界とまた別次元にあるのだ。
普通の精霊は、神と会うことはない。
神の使いだった頃は、毎日、会っていたけれど。

放棄してからは、一度も会っていない。

それでも、その存在を感じない日などない。
神が、この身体に残した強い痕。日毎、少しずつ強まっていく封印。
仔猫の首を、真綿でゆっくり、絞め殺していくように。
「ゆっくり、殺す・・つもりなんですね」

でも、分かっていた。最初から。
神から逃げるなんて。
こんなことが、許されるはず、ないということ。


遠くから、微かな声が聞こえた。
黒鋼が呼んでいる。
木から飛び降りたファイは、そのままするりと銀色の竜に形を変えた。
今の力では、この姿でないと強い魔物とは戦えない。

地へと降りる前に、もう一度、空を見上げた。
天に輝く、銀色の月。


ー神様。
オレを、見ていますか?










「どうした」
「なぁんでもありませーん」
お寺の縁側に腰掛けたままぺったりと倒れていると、仁王立ちの黒鋼が真上から見下ろしてきた。
眉間にしわが寄っている。
いけない、いけない。腕に力を入れて、体を起こした。
「体調でも悪いのか、おまえ」
「ううん、まったりしてただけー。このお寺って、居心地がいいよねぇ」
居心地がいいのは嘘じゃないけれど。
黒鋼に呼ばれて、魔物と戦って。
竜の姿だったから、多分、力が弱まっていることはばれない程度にやれたと思う。
でも、思った以上に体力を消耗した。体に力が入らない。
(困ったなぁ・・)
悟られる前に天界に帰ろうと思ったのだけれど、帰れなかったのだ。
帰ることが出来なかった。
(ここまで駄目になってるなんて・・)
夜空には、天界と同じ形の月が、冷たい光を放っている。
三日月でこの状態では、新月になったら。
ひょっとしたら、地上に降りることすら出来ないかもしれない。

黒鋼はやさしいから、このことが知れたら。
いつか、何か、大きな。
迷惑をかけてしまう気がする。
気付かれないように、悟られないように。
きっと、一緒にいられるのは、そう長い時ではないから。

「・・隠し事ばっかするなよ、おまえ」
低い呟きが聞こえ、その言葉の主は部屋の奥へと引っ込んで行った。
ー意外とよく見てるんだよね。
油断ならない。
身体を起こしているのがつらくて、もう一度、ころりと転がる。頬杖を付いて、部屋の奥へ視線を移した。
黒鋼は、あぐらをかいて刀の手入れを始めている。

どっちにしろ、このままではすぐに気付かれてしまうだろう。
この身体を誤魔化す為には。
(・・ちょっとだけ、貰えたら・・)
黒鋼の、逞しい喉元を見た。多分、少しくらい貰ったって、大丈夫だろう。
力を得る方法はただ一つ。と言っても、付け焼刃。弱まる力の、根本的な解決にはならない。
ただ、おしまいの日の、期限は延びる、それだけのことだけれど。


黒鋼は、やさしいから。
もう少し、一緒にいたいと思う。

いつ消えてもいいと思っていた。
毎日死にたいと思っていた。
ーずっと、いつ消えてもいいと、思っていたのに。


力を得る方法、それは、この身体の傷の“てっとり早い治癒術”と一緒。
式神は、仕える主人の体液を拠りましに、その力を吸い取ることが出来る。
契約の繋がりにより、その力を吸収することも出来るのだ。
しかし守るべき存在である主人の力を吸い取っては、本末転倒である。故に、普通はやらない。

(してくれるかなぁ・・)
身体がだるい。腕を上げるのも億劫だ。口付けの一つでもしてくれれば、だいぶ違うと思うんだけれど。

ー俺のになれ。

そんなことを貴方は言うから。
(てっきり、そういう意味で、言ったんだと思ったのに)
黒鋼の式神になってから、二月ほどたつ。夜更けまでこのお寺にいる時もあるのだけれど、
一度も触れられることはなかった。
純粋にただ式神を、憑けたかっただけなのかもしれない。
(して、くれないかなぁ・・)
頬杖を解いて、またころりと転がった。仰向けになったまま黒鋼を見る。
「何だ」
「なぁんでもー・・」
言えない。キスして、なんて。どうしたらしてくれるのだろう。
こちらの逡巡にも気付かない様子で、刀の手入れが終わったらしい黒鋼は、
立ち上がって台所に向かっていった。
お酒でも取ってくるのだろう。


誘惑。


してみようかな。
やはり徳利を持ってきた黒鋼が、ファイとは少し離れて縁側に腰掛けた。
今は、夏の初め。夜はまだ少し肌寒いけれど、その冷たさが心地いい時期。月でも見ながら、飲むのだろう。
気怠げに身体を起こしたファイは、座ったままずりずりと、自分の主の元へと近寄った。
「オレも飲むー」
「おまえ、酒なんか飲めるのか?」
「ちょっとだけ。好きだけど、お酒、弱いんだー」
本当は強い。
徳利は、黒鋼を挟んだ向こう側に置いてある。
「ねぇ、ちょうだい」
ついと、彼の膝に手をつく。
ざらりと織られた黒袴の上に、白に近い蒼の薄袖を散らして。
その手を。膝から腿へするりと少し滑らせて、指先に神経を集中して。
着物の上からでも分かる、固く筋肉の付いた脚。その上に置いた自分の白い腕は、簡単に折れそうなほど細い。
(力が、弱まってるから・・)
その影響で、人身に変化した身体が余計、華奢になってしまっている気がする。
主の膝に上身を乗りかかるようにして、徳利に指を掛けた。
「・・いい?」
囁くように言って、上目遣いに黒鋼を見た。
今夜は、三日月が冴えているから。こうすると、長い金の睫毛に蒼の瞳が反射して、透けるように綺麗だと。
いつも、あの人がー。
「飲めよ」
捨てるようにそう言った黒鋼は、何時にも増して眉間に皺を寄せていた。
・・怒っているのだろうか。
(分かんないなぁ)
身体を戻しながら黒鋼の手の中のお銚子を横取りしてやり、ちょっと接ぐ。
ぺろりと舐めると、いい香りがした。
「おいしいー」
「弱ぇなら、あんまり呑むなよ」
「いいお酒、飲んでるんだねー。香りが貫けるー」
お行儀悪いと思いつつ、徳利から直にくぴりと呑んだ。
「おまえ、言ったそばから」
徳利がやけに重く感じられて、床にこつりと置いた。
霊力が足りなくて、眩暈がする。横に付いた腕で体を支え、黒鋼の肩にそっと頭を預けた。
何か言われるかと思ったけれど、黒鋼は何も言わなかった。
ああ、動けない。もう、限界かも・・。

ー分けて、欲しい。

こんなに、近くにいるのに。息遣いが、すぐそばに聞こえるのに。
ちょっと首を上げれば、口付けくらい、簡単に。そしたら、きっと楽になれるのに。
(・・誘惑すれば、振り向いてくれますか?)
待ってるだけの、自分も自分なのかもしれないけれど。

「結構これ、強いねぇ。なんか、くらくらするー」
「謂わんこっちゃねぇ」

ーどうしたら、振り向いて、くれますか?

置かれた徳利を、黒鋼が掴んだ。でもその手は、そのまま動こうとしない。
ーどうしたのかな。
徳利の脇に置いた自分の手と、見比べる。
浅黒く筋張った力強い手は、自分の白くひ弱な手と、全然違う。
ーご主人様。

「ちょっと、酔っちゃったみたいー・・」
薄い着物の、胸元を少し寛げた。
ーねぇ、こっちを見て。
とにかくオレが、男であることを忘れさせればいいんだよね。
「なんか、熱い・・」
ぺたんと倒していた膝を、立てた。薄物の裾がするりと落ちて、片脚が露わになる。
鈍い月明かりと、部屋のぼんやりとした灯火に、頼りないほど細く白い脚が浮かび上がる。
ー幽霊みたい。
これじゃあ欲情してくれないかなぁ、と黒鋼を仰ぎ見ると。
すごく怖い顔で、オレを睨んでいた。
「な、何ー?」
「俺はもう寝る。おまえも帰れ」
不機嫌な声でそう言って、勢いよく立ち上がった。大股で寝床へ行ってしまう。
ー帰りたくても、帰れないのに。
ああ、難しい。
黒鋼の寝室へと、膝を付いてずりずりと向かう。彼はもう床に入っていた。
向こうを向いている彼の顔を、四つん這いのまま覗き込んだ。
「オレも眠いんだー・・。一緒に寝ていいー・・?」

今まで見たことがないくらい、凶悪な顔をされた。

「断じて入るな。今すぐ帰れ」
鬼の様な低い声で言って、逆側を向かれた。
ーだから、帰れないんだってば。
手強いなぁ。

仕方がない。
ファイはよろけつつ立ち上がった。壁に手を付いて、小さなため息をつく。
強硬手段だ。
「お台所に、瓜があったよね。食べていいー?」
「・・いいが、明かりちゃんと灯して剥け」
はぁい、と気の抜けた返事をしつつ、ふらふらと台所へ向かった。
鬼のような雰囲気だった割に、オレが包丁で手を切らないように、気遣ってくれているらしい。

俺の式神になれと、彼は言い。
そしていつも、オレを大事にしてくれている。
言葉も仕草も乱暴だけれど、どれだけ大事に思ってくれているか、そんなことは痛いくらい伝わってくる。
大事に思っていてくれるのならば。
口付けくらい、きっと、嫌じゃないと、思うのだけれど。

包丁を手にし、瓜をすとんと切った。
それから。
包丁の切っ先を、指先に当てる。
力を込めると、繊維の切れる音がして、銀色の血がとろりと溢れ出した。
血液は、滴り落ちる前に、銀粉へと形を変えてゆく。ちらちらと煌き落ちていく銀粉。
「・・痛・・」
小さな、小さな傷口が、何だか無性に痛かった。
その痛みに、黒鋼の式神になってからずっと、一度も血を流していなかったということに、気が付いた。
指先の小さな傷が、こんなに痛いなんて。


前は、もっともっと酷い傷を。毎日。


分かってる。
こんなに痛みを感じるのは、霊力が弱まっているせいじゃない。
心が、弱くなっているせいだ。
(大事にされすぎも、よくないね)

戻れなく、なりそうで。
彼といられるのは、そう長い時間じゃない。


「黒たぁん・・」
わざと甘ったれた声を出して、寝室にゆらゆらと戻る。
「間違って、指、切っちゃったー・・」
「だから言っただろう。この馬鹿が」
枕元に膝を付いたとたん、起き上がった黒鋼に、思い切り腕を引かれた。
よろめいて片腕を付くと、銀粉が舞い散った。

ーして、くれるだろうか。

「前、聞いたでしょー?簡単に式神の怪我を治す方法。
あのね、ご主人様の霊力をちょっと分けて貰えば、すぐ治るんだよー」
突然そんなことを言い出したから、黒鋼は怪訝そうにオレを見た。
「どうやるんだ」
「ご主人様の、体液を拠りましに、霊力を吸い取るの」
オレの指を掴んだ力が、少し弱められたから。
「舐めてくれると、治るの・・」
少し、首を傾げて。媚びるように、黒鋼の紅い瞳を見た。
「ねぇ、舐めて・・?」
彼は何も言わず、射抜くようにオレを睨みつけた。
ー怒ってる?
してくれないかな。そう思った時、銀の滴る指が彼の口先に、ぐいと近づけられた。
(あ)
彼の舌が見えて。

血が、逆流するかと思った。

思わず力任せに手を引っ込めて、身体を引いた。
ー何?今の。
「やっぱ、いいや。何でもない、忘れー」
言葉が終わる前に、振り払った手をもう一度、軋むほど強く掴まれた。
「どういうつもりだ」
耳元で。低く小さく、囁かれた。

気が遠くなる。
ー何で?

「だい、じょうぶ、これ位・・ほっておけば、治るし」
「おまえが舐めろって言ったんだろうが」

心臓が止まりそう。
ーどうして・・?
なんて事を、しようとしていたんだろう。

掴まれた腕を引いたけれど、力で黒鋼にかなう訳などない。
逃げようとする身体は、彼の片腕で簡単に押し倒された。

ずっと欲しかった、彼の体液。
今、与えようとしてくれているのに。
どうしてオレは。何を、怖がっているんだろう?

抵抗を押さえつけ、彼はオレの指先を、強引に口に含んだ。
「ー・・っ」
その舌で、傷口に唾液を塗り込めるように、舐め上げられる。
ざらりとした感触。そこから流れ込む、彼の霊力。
身体が浮き上がるような感覚。
「・・ぁ・・っ」
身体は楽になったのに、それとは別の。
心臓が、痛くて。呼吸が出来ない。
音を立てて銀の血を吸い上げた黒鋼が、震える指先から舌を離した。
「・・わざとだな?わざと切ったな、おまえ」
「・・え?」
「切り口で分かる。間違えて切ったなら、こんな傷にならねぇ」
「・・・っ」
ーどうしよう。
言葉を発せずにいると、彼は指を解放し、両腕で乱暴にオレの身体を押さえつけた。
体重を掛けられる。
動けない、心臓が。
「もう一つ言えば。・・酔ってねぇな?」
ー分かって・・・!
「誘ってんのか」

眩暈がする。眩暈がする。でもそれよりも、
心臓が、壊れそう。


ーこんな痛み、オレは知らない。


「・・誘ってるの・・ご主人様の、体液が・・欲しい・・」
掠れた声で囁くと、オレの肩を抑える腕に、痛むほど、力が篭った。
「そんなに欲しけりゃ、くれてやるよ。いくらでも」

貴方の言葉が。心臓を掴んで、痛みに囚われる。
痛みの理由を考える前に、いきなり口付けられて、差し出す前に、強引に舌を絡め取られた。
焼け付くような口付けに。
舌で思うまま犯されて、呼吸が出来なくて。心が、引き摺られる。

気が狂う。

「だめ、だめ・・っ」
やっと解放された唇で、喘ぐように訴えると、耳元に彼の低い囁きが流れ込む。
「だめっておまえ・・欲しいんだろ?」

こんなこと、慣れてるのに。
あの人にはもう、何度も。

やり方が違う、それだけじゃない。
苦しいくらいに注ぎ込まれる力強い霊力、それよりも。

溶けてしまう。
流れ込む命、なのに苦しい。どうして?
苦しいのに欲しい。どうして?

溢れる熱はオレを救い上げる。

この力が、オレの命。なのに。
死んでしまいそう。

神ではなく。今はこの人が、オレのご主人様。唯一絶対の。
でも、満ちていく、霊力よりー

「ファイ」
名を呼ばれて。
涙が出そうになった。












気が付くと、月は傾き、空は白みかけていた。
着物はきちんと直されていて、布団を掛けられている。
優しいんだよね、黒たんは。起き上がると、身体が羽根のように軽かった。
(貰いすぎちゃったかもー・・)
手の平を見る。天界でやったのと同じように、指先に意識を集中してー
驚いて、とっさに散らせた。
ここら一帯を吹き飛ばしてしまうところだった。
「すっご・・」
途中で意識が朦朧として、何回されたか覚えていない。
一晩でここまで満たしてくれるのならば。
きっと、1年・・もって2年くらいは、一緒にいられるだろう。
強まる封印に抵抗できる限度は、きっとそこまで。
オレの力が消えた時、オレも消えてしまうか。天に戻るか。

でも、それより、こんなに奪ってしまって。
ー大丈夫だろうか。
「大丈夫か」
背後から声がして振り向くと、大丈夫かと心配した本人が何でもない顔をして立っていた。
少し、恥ずかしいかも。この人は平気なのかな。
「黒たんこそ、大丈夫?ごめんね、すごくたくさん貰っちゃったんだけどー・・」
「別に俺はなんともないが。・・悪かったな」
ちょっと視線を外して、彼が言った。やっぱり恥ずかしいらしい。
でもこんなに吸い取られても平気なんて。
どうしてだろうか。

「ここまでされるなんて、思わなかったけど。ねぇ、もしかして。ずっと、我慢してたのー?」
「・・うるせぇ」
「いつでもしてくれて、よかったのに。式神は、ご主人の体液が大好物なの。
すごーく、美味しかったよー。ねぇ、どうしてしなかったの?」
「・・そりゃ、おまえ・・」
口の中でもごもご言って、結局照れたようにふん、と顔を背けた黒鋼には、何か分からないが
とにかく彼なりに理由があったらしい。照れる彼は、可愛いと思う。

まだ朝までもうちょっと時間があるから一緒に寝て欲しいな、と布団を少しめくった。
来てくれないかと思ったけれど、意外にも素直に入ってくれた。

「こんな風に治せるんだな」
黒鋼が、傷跡の消えたオレの指を取って、呟いた。
「んー。契約したご主人様なら、汗でも涙でもなんでもいいんだよー」
ああ、でもこれだけは言っておかないと。

一番大事なこと。

「血液だけは駄目」
「何でだ」
「強すぎるんだよー。絶対、駄目だからね。気を付けて・・」




貴方は、やさしいから。
ー 気を付けて。







初めて知った、胸の痛み。締め付けられるような。

貴方はオレを助けてくれた、特別な人。


ー 人はこの想いを、何と呼ぶのだろう?


おしまいの日、オレは貴方から離れられるだろうか。
貴方を忘れて、ここから消えることが出来るだろうか。


必ず来る、その日まで。
一秒でも長く、貴方と一緒にいられたら。






黒鋼が開けた障子から、消えかけた細い月が見えた。

「・・黒たん、大好き」

そう言って、その胸に擦り寄ると。
そっと、抱き締めてくれた。




空高く、消えかけた細い月。










ー神様。
オレを、見ていますか?





  


珍しくファイ視点ですが、ファイが主体だとファイを褒め称える描写が出来ないという
致命的な欠点があります。
誘ってるとこなんか、もっとこう・・あれやこれや細かく描写したかったのに・・!!
直線上に配置
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