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学園ラブコメ15のお題

3 水道管


天上への鍵は壊れている。
そのことを知っているのは、僕らだけ。




ここは、立ち入り禁止の屋上。
黒鋼は、組んだ腕を枕代わりに寝そべっていた。

屋上への扉の鍵が壊れていることを発見したのは、数ヶ月前のこと。
そこの大きな水道塔脇はちょうどいい日陰になっていて、昼寝をするのに都合がいい。
誰も来ないそこを、黒鋼は自分専用の昼寝場所と勝手に決めたのだ。

抜けるような青空。そのさわやかさに似つかわしくない溜め息が、空へと溶けていく。
ー今日は散々な目に合った。
朝から妙な夢を見て遅刻しそうになった上、『ファイたんを見守り隊』に勧誘された挙句、ファイにホモだと誤解され。
・・断じてホモではないのだが。
しかし、あんな夢を見ておいて、・・そうは言い切れない気もするようなしないような・・。
もやもやした心とは対照的な青空に向け、もう一度溜め息をついて・・ふと、人の気配に気が付いた。
「あ!やっぱりここにいたー。黒たん、昼休みにここで寝るの好きだよねー」
そう、鍵が壊れているのを知っているのは、もう一人。その一人こそ、俺の悩みの全ての元凶。
建て付けの悪い扉を押し開けたファイは、足音も立てずこちらに歩み寄る。
枕元辺りにちょこんと座ると、俺と同じように空を仰いだ。
「・・さっきのこと、ショックだったけど・・。でもオレ、そういうの、偏見とかないから・・」
「違うっつーの!!」
思わずガバリと起き上がって否定すると、ファイは腹を抱えて笑いだした。
「冗談だってー。ただ皆でふざけてただけでしょ?
分かってるよ、そんなにムキになって否定しなくてもー。はは、黒たんおもしろーい♪」
「面白くねぇ!!変な冗談言うな!」
本当に誤解されたかと、真剣に憂鬱になってしまったではないか。
さらに文句を言おうとすると、笑いを引っ込めたファイが唐突に呟いた。
「・・うらやましいなぁ・・」

その意味に、疑問を抱く間もなく。
細い両腕をこちらに向けたかと思うと、ファイが突然、抱き付いてきた。
「なっ?!」
しかも不意打ちだったのでそのまま押し倒され、硬い地面に頭を打った。
「っつ・・!!なっ・・ファイ?!」
「あはは、ごめーん、頭打ったー?」
抱きついて倒れこんだまま、ファイはけらけらと笑う。
何のつもりだ?こんな一目のないところで、二人きりで。
押し倒された、この状況。
ブレザー越しに、ファイの鼓動をかすかに感じる。
その音に、今朝の夢をまざまざと思い出してー心臓が、高鳴った。
「な、何だよいきなり・・」
「さっきの子達の真似ー」
どうやら、見守り隊員の真似をして抱きついているらしい。
何だ、遊んでるだけか。

からかわれているだけ。それなのに。
胸に回された白い腕の、華奢な感触。
ブレザーにさらりと流れる金の髪の、仄かに香る甘さ。
こんなふざけた奴なんかに。
きっと夢のせいだ、妙に意識してしまう。

「・・やっぱ、いいなぁ。こうしてると、落ち着くー・・」
こっちは全く落ち着かない。この動悸が、聞こえなければいいが。
ーいつもの俺なら、すぐに振り払うべきなのだろう。
何故か、体が動かない。
「オレさー、結構人に気を使っちゃう性格でしょー・・」
「は?あ、ああ・・」
俺の気も知らず、ファイは囁くように話し出した。
ー気を使う。
確かに、こいつは異常に人当たりがいい。それはいつでも、誰に対しても。
様子を見ていると、(俺以外には)相手に合わせて接している。
自分を殺している。
見ていると、そう思う。
「家も・・父様の会社の関係で、いつもたくさん人が出入りしているんだ。
相手もしないといけないし、あんまり落ち着けないっていうかー・・」
そこまで言うと、ファイは腕を外してころりと仰向けになった。俺の腿辺りを枕に。
これでは俗に言う、膝枕というやつではないか。
「なんでかなあ・・黒たんといると、落ち着けるんだよねー・・。
大きな大きな木に、寄り掛かってるみたいに・・安心できる・・」

ファイは本当に安らいでいる風に、少し息を吐いて瞳を閉じた。
大木、か。木がこんな気持ちではいけないだろう。
常に気を張っているらしいこいつが、今この空間に安らぎを感じるというのなら。
この空間を壊すのは、悪い気がして。
小さな頭を落とさないように気をつけながら、俺はゆっくりと上体を起こした。

穏やかな日。辺りは静かだ。
運動場でバレーでもしているのだろう、遠くでかすかに響く、楽しげな歓声。
穏やかな風が、金の絹糸を静かに揺らす。
やわらかい日差しに、影を落とす長い睫毛。
僅かに開かれる小さな桜唇は、心地よさげで。
なんて無防備な。

ふざけてばかりだと思っていたけれど、こいつにも色々苦労があるのだ。
いつも俺をからかっているのは、ひょっとしたら、俺に甘えているということなのかもしれない。

精巧に作られた人形のような、綺麗な寝顔。
静かな空を仰ぐと、飛行機雲が空の彼方まで続いていた。

階段を下りれば、すぐそこに日常があるのに。

何だかこの屋上だけ、別次元のように思えた。

「気持ちいなあ・・。このまま時が、止まればいいのにー・・」

ファイはそう呟いて、俺の腿に擦り寄るように頭を動かした。


そうだな。

この空間はとても気持ちがよくて。
じき午後のベルが鳴ることも、いつか卒業してここを去るということも、忘れそうだ。

このまま時が止まればいいと、
こうしていたいと、

俺もそう思った。


始業のベルで簡単に壊れるこの穏やかな空間が、
・・いつまでも続けばいいのにと。








すすす・・水道管、全く関係ねエエエエエエ!!!!!!

水道塔の水道管が故障してとか思っていたのに・・あれ?!話終わっ・・。
お題失敗に終わった(負け犬)。
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