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学園ラブコメ15のお題

5.ランチタイム

「あーッッ!!!」
「えっ、何?どしたのー、黒たん」
今日も元気に自転車登校。毎度の事ながら強制的に自転車を止められ、ちょっかい掛けられつつ
二人乗りでこいでいてー
ふと気が付いた。
「弁当忘れた!」
おふくろが作った弁当を、玄関に置いてきてしまったのだ。
「わぁっvだったらオレのお弁当あげるvお昼、お弁当持って教室行くよー♪」
「来んでいいっ」

そう、以前このパターンでひどい目にあったのだ。
その日も弁当を忘れた俺は、あろうことかファイの申し出をうっかり受けてしまった。
この学園には立派な学食があるのだが、俺はあまり店屋物は好かない。
ファイは料理が趣味で、毎朝自分で弁当を作っているらしい。
評判のいい弁当で、クラスの奴らがその弁当を少し分けて貰うのを楽しみにしており、
それでいつも多めに作ってきているということだ。
二人分くらいあるからあげる、というのでつい了解してしまった。
よく考えたら分けて貰おうにも、弁当箱も箸も一つしかないのである。
結局、俺の前の席を陣取ったファイに、箸が一つしかないという大義名分の元「あーん♪」などと
卵焼きを差し出される事態となり、それを見た女子に「黒鋼君、ファイ君になんてことを!!」と
敵意を燃やされ、ファイを好きな男子にも「見せつけるなァァァ」と絶叫された。
やっているのはファイなのに、何故俺が矢面に立たされるのか。

「えー、オレのお弁当、いらないのー?せっかく今日は、黒たんのだーい好きな唐揚げなのにー」
大袈裟に、残念そうな声を出すファイ。
こいつの作った唐揚げは、以前食ったことがある。非常に美味かった。
「しょ、しょうがねぇな・・。でも教室には来るなよ、人のいないところじゃないと食わねぇからな」
「じゃあ、誰もいないところで、ふたりっきりで食べるってことー?!わぁいっ、うれしーいv」
後ろから俺の首に抱き付き、歓声を上げられた。しまった。そういうことになるのか。
・・男子生徒がこっそり二人きりで弁当を食うというのは・・あまり一般的でないシチュエーションの
ような気がする。しかし、また教室で大騒ぎされるより幾分ましか。
「お昼、楽しみにしてるねー♪」
各々クラスへの別れ際、ファイは嬉しそうにひらひらと手を振った。

何事も、起こらなければいいが。・・何だか嫌な予感が、するような・・。



昼休みのチャイムが鳴ると、教室のドアが軽やかに開かれた。
「くっろたーん!おべんと一緒に食べ・・」
「だぁッ」
そういうことを大声で言うなというのに!自分でも驚きの俊足で飛び付きファイの口を塞ぐと、
手首をひっ掴んで逃げるように教室から離れた。クラスの奴らには、何とか気付かれずにすんだろうか。
「ぷはっ、苦しかったー!んもう、黒りんたら強引なんだからー」
「ああいうことを大声で言んじゃねぇっ」
「いいじゃない、隠さなくたってー。悪いことしてる訳じゃなし。ねぇ、どこで食べるー?」
ファイは弁当の包みを抱え、上機嫌で俺を見上げる。
おまえに被害はなくても、俺に被害が大有りなのだ。どうもその辺を理解していないのだ、こいつは。

結局、余り使われない化学準備室で弁当を広げた。
「じゃじゃーん♪どお?黒りんが食べるって分かってたら、もっといっぱい作ってきたのになー」
重箱の中は、様々な種類のおかずで彩られている。相変わらず、手の込んだ弁当だ。
「はい、あーんv」
「だからそういうのやめろって言うに・・」
「しょうがないでしょお、箸一組しかないんだしー」
まあ・・誰も見ていないし、・・いいか。
渋々口を開けてやると、ファイが驚いた声を出した。
「きゃあ!!黒ぽんが『あーん』したーっ!!どうしちゃったのーっっ!?!」
「ど、どうしたもこうしたも、おまえがやれって言ったんだろうが!」
まさか本当にやってくれるなんてと、ファイが途方にくれた顔をした。
じょ・・冗談だったのか。
・・・。
考えてみれば、死ぬほど恥ずかしいことをしてしまった。
よく考えてみれば、生まれてこの方一番恥ずかしいことをしてしまったのではなかろうか。
「も・・もう俺は帰る・・」
「待って黒りん!元気出してっ。大丈夫、オレしか見てなかったから。
誰にも言わないよー!本当だよ!!」
「誰にも言わないって・・お・おまえまさか誰かに言うつもりか?!」
「だから言わないってばー♪」
けらけら笑うファイは、全く信用できないのだが。・・ため息をついて、浮かせかけた腰を下ろした。
「箸寄越せ。自分で食う」
「じゃあオレが食べる時は、黒たんがあーんってしてくれるのー?」
「誰がするか!半分食ったら箸返す」
しかしよく考えれば、それも・・。間接キスというやつだ。
「んもー、我侭なんだからー。はい、お箸」
少し躊躇ったが、なにしろ腹が減った。目の前には、美味そうなだし巻き卵や唐揚げ。
間接キスとか。そんなこと、気にするほうが、どうかしてるか。
おかずを摘み上げて口に放り込むと、やはりとても美味かった。


結局、弁当のほとんどを俺が食ってしまった。
「キレイに食べてくれたねー。作った甲斐があったな♪
気に入ってくれたなら、毎日だって作ってあげるよー。どお?」
にこにこと俺の顔を覗き込むファイ。確かに、毎日食べたいくらい美味かったけども。
さすがにそんなことは言いづらい。答えあぐねていると、ふとファイが真面目な顔をした。
「・・気付いてる?」
「は?」
「見張られてる」
突然潜めた声にこちらも少し緊張し、眉を顰めて窓の外を見遣る。
向かいの棟、3階辺りの一室が、太陽の光を不自然に反射した。
「食べてる途中からだよ・・望遠レンズの光かな。何だろう・・禍禍しい気配を、感じる・・」
誰か分かる?と、ファイは不安げに外を見た。
俺は、自慢じゃないがアフリカの民族に負けず劣らず視力がいい。よく目を凝らすとー
「げ」
やっぱり、あいつらだ。ファイたんを見守り隊の面々が、隊名通りファイを見守っていた。
『隊長ォォォー!!あいつ、ファイたんと二人でメシ食ってますゥゥー!!』などと騒いでいる様子である。
確かに禍禍しい。
しかも、証拠を残し訴えるつもりなのか、望遠カメラまで持ち出してきたようだ。
「まずい、隠れろ!」
とっさにファイの細い手首を掴んで、机の下に押し込んだ。
「わっ、何?!ま・まさか黒たん、誰かに命を狙われてるのー?!」
狙われているのはおまえだ。命を狙われている訳ではないが、ある意味、命を狙われていた方が
まだマシな気もする。
ファイは、地震じゃあるまいし机の下に隠れるだけで防げるのかと、心配気に様子を窺う。
「黒たんが誰かに狙われてるんだったら・・オレ、協力するよ!何でも言って!!」
余程心配なのか、潤んだ瞳で俺を見据え、しっかと手を握られた。
同じ机に潜っているので、至近距離である。
真っ直ぐに向けられる瞳は、蒼く澄んで、宝石のようだと思う。
長い金の睫毛が、光を反射する。俺の手を掴むその指は俺のとは違いすぎて、同じ男の手だとは思えない。
真っ白で細く、爪先まで綺麗な。
「・・黒、たん?」
ファイが、不思議そうな声を出した。
その疑問が、その手を解きファイの肩を掴んだ俺の手に向けられたものであることに、後から気が付いた。
ー 何で俺は、こいつの肩なんか。
「・・ねぇ・・何・・?」
白く滑らかな頬が、ほのかに紅く染まった。
その疑問は、俺がファイに顔を近づけていることに、向けられていると。

ー 気が付いた。

「・・ッッ!!」
勢いよく、その細い肩を遠ざけた。


何を、しようとしていた?


心臓がだくだくと血液を流す音が、鼓膜を叩いた。
机から飛び出しバシンと音を響かせながらドアを開け、全力で駆け出す。
「黒たん!」
ファイが引き止める声が聞こえたけれど、構わずに駆けた。



俺は、何をしようとしていた?





珍しく今回はお題通り、ちゃんとランチタイムのお話です!!おおー、やれば出来るじゃないかー!!
この調子でいきたいものですな。
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