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学園ラブコメ15のお題

7 いたずら

「えーーー?!お箸持ってきたのぉ?!つまんなーいっ」
「つまるもつまらんもあるか、さっさと弁当寄越せ!」

時は昼休み、場所はあまり使われない化学準備室。
弁当作ってあげるという提案をまたも受けてしまった俺は、ファイとふたり、弁当を広げていた。
今回は事前に分かっていたので、マイ箸持参。それがファイは不満らしい。
(何だって、同じ箸で食いたがるんだ?)
ファイの『好き』は、友達としての『好き』なのに。
いや、意識していないからこそ言えるセリフか。単にからかわれてるだけなのだろう。
「ほら見て!今日は黒たんの為に、頑張ったよーv」
胸を張る真似をするその言葉通り、前より一段と豪華な弁当だ。
いい嫁になると思う・・って、こいつは男か。
そこらの店のよりずっと美味いそれを口に運んでいると、前回ここで起こった出来事が
いやおうなしに蘇ってくる。

ファイへの気持ちを自覚した、あの日。
それからファイを避け、結果理事長に呼び出され、えらい目に合った。
仲直りの握手をして(というか一方的にされ)、ファイとの関係は、まるで何事も
なかったかのように元に戻っていた。ただし、表面上は。
こいつはいつものように、無邪気に懐いてきたのだけれど。
自分の気持ちに気が付いた俺は、もう以前と同じようにはいられなかったのだ。
二人乗りの時回される細い腕も、俺を見て微笑む蒼い瞳も、どうしても意識してしまう。
もっと触れたい、とか。もっと引き寄せたい、とか。
気持ちを抑えるのは、つらかった。
しかし避けていた時より、つらくともこうして一緒にいられる方が、幾分マシな気がする。
それに気付かせてくれた(のかどうかよく分からないが)理事長に、感謝しなければならないだろうか。

あんなことがあった化学準備室に、また来るのは気が引けた。
しかしファイは全く気にしてない風で、俺の食べる様子を嬉しそうに見ている。
ふたりきりで、密室で。
以前他の校舎から狙われたこともあり、今回はカーテンも閉めきってある。
それに余計意識してしまうのだが、ファイは何の警戒心もなく頬杖をついていた。

以前俺を、大きな木のようだ、と言っていた。一緒にいると、安心できると。
今も、俺を信じきっている様子のこいつに。

ブレザーから覗く白い手首は、ちょっとひねり上げればすぐ折れそうに細い。
筋肉が付いている俺の腕の、半分の太さもない。
腕力の違いなど、歴然としている。
その気になれば、いつだって。

でも。
『黒たんといると、落ち着けるんだよねー・・』
屋上で、俺の膝にもたれて。
本当に安らいでいる風に、瞳を閉じていたファイ。
その唯一の安らぎの場を奪うようなことは。
信頼していた“木”が襲ったりしたなら、そのショックたるや相当たるものだろう。


「むずかしいカオしてる。どしたのー?」
不思議そうな声に、我に返った。気が付くといつの間にか弁当は、またほとんど俺が食ってしまっている。
「おまえ、全然食ってないじゃねぇか。食えよ」
自分で食べておいてどうだろうと思いつつ一応勧めると、
ファイはそういえばそうだねぇと呑気に呟き、赤いプチトマトを摘んだ。
「おいしー。黒たんもはい、あーん」
「って、それだけかよ。ちゃんと食え。痩せすぎだ、おまえは」
「うーん。こんな身体じゃ、抱き心地悪いよねー」
思わず吹きそうになった。
「でもいいよ、黒たん全部食べちゃってー。だって一生懸命作ったお弁当、
自分で食べるより、黒たんが食べてくれた方がうれしいんだもん」
嬉しそうに俺の顔を覗き込む。
抱き心地の件は、すぐ流れていった。特に意味はなかったらしい。
(我慢してんだから、そういうことを言うな)
「あんまり食わねぇでいると、そのうち餓え死するぞ」
「ひどーい、餓死するほど骨ばっかじゃないんだから!
黒たんはオレの裸見てないから、そういうこと言うのー。そこまでがりがりじゃないもん」
「はだ・・」
だからそういう。
「黒たんは、もっとふわふわした身体の方が好きー?」
「・・・や、俺は・・」
言葉に詰まる。蒼い澄んだ瞳は、じっと俺を見ていた。

・・ひょっとして、誘われているのだろうか。
なんて、そんな訳ねぇか。

ファイは、普段と変わることなくふんわり微笑んでいる。
真意が掴めない。
考えてみれば、告白の返事があまりにあっけらかんとしていたので、友達としての
『好き』であると勝手に解釈したのだが。
ファイの口からそうだとは、聞いていない。
ひょっとして、俺の気持ちは伝わっていて。
ひょっとして、ファイの『好き』も、そういう意味での『好き』だったのだろうか。
いや、そんな訳が。

もう一度、ファイを見た。
表情は変わらない。
分からない。

黙り込んだ俺に、ファイがちょっと小首を傾げた。
「・・この前ここで、一緒にお弁当食べた時。黒りん、いきなり出て行っちゃったでしょー?」
「・・それは」
「ねぇあの時。何しようと、してたの・・?」

それは。

潤んだような蒼い瞳に、俺が映っているのが見えて。

心臓が一つ、大きく打った。
そんなはずはない。

何故か喉がはりついたように、言葉が継げなかった。
キィン・・と突如耳鳴りのように。
部屋の静寂が、鼓膜に響く。
俺を見詰める、綺麗な瞳。
ふたりきりの、教室で。
空気がとまる。

分からない。
これが、本気なのか、冗談なのか。
いや、そんなはずはない。

ぐらりと視界が揺らいだ気がして。
机の上の白い手に、重ねて手をついた。
小さな驚きの声とともに逃げた細い指を、とっさに掴む。
ファイは戸惑ったように、綺麗な瞳を瞬かせた。

頭の中までも、ぐらりと揺らめいて。
気付くと、滑らかな頬に手を添えていた。
柔らかくきめ細かな白い肌は、乱暴に触れれば傷が付きそうで。
そっと撫でると、小さな桜色の唇が、戦慄くように震えた。

その震えが。
事態が飲み込めない、動揺によるものなのか。
俺に対する、恐怖によるものなのか。
それとも。
それを待っていて、その先の、緊張によるもの、なのか。

分からなかった、けれど。

待っている。

あの日のように。顔を近づけてー

『ねぇあの時。何しようと、してたの・・?』

そう、俺は。

震える小さな唇を、奪った。
今まで触れた、何よりもずっと柔らかい、その感触に驚いて。
溶けてしまいそうで、両手でその滑らかな頬を覆う。
閉じた小さな歯列にそって舐めると、ファイがそっと口を開けた。
(ファイ)
誘われるように。
机に身を乗り出して、柔らかい口腔に舌を差し入れた。
(抵抗、しない・・)
上顎の粘膜を喰らうように舐め上げ、きつく舌を絡め取る。
「・・ん・・っ」
苦しげな吐息が聞こえた。
もっと深く。
立ち上がって、上から覆い被さるように口付けた。
華奢な身体を強く抱き締めて、白い首筋に舌を這わせようとして。

「だめ・・っ!」

悲鳴のような鋭い拒絶に、我に返った。
細い腕は、大したものではないが意志のある力で、俺の身体を押し返す。
息を上げて俯く、金の髪。
「あ・・」

違う、許したのではなく。
身を任せていたのは、ただ自体が飲み込めなかった為だ。

押し返す華奢な指は、震えていて。
(怖がってる)
「・・悪かった。忘れてくれ」

こんなのは、ファイだって。
もう冗談とは、思えないだろう。

もう、こいつとは会えない。

でももうきっと、限界だったのだ。
もう一度謝って背を向けると、ふいに。
裾を引かれた。

「・・明日」

明日からもう、君に近付かないから。そう言われると思った。
「明日、父様の会社の・・重要な会議があって」
「は?」
会議がどうした。震える声の、先が読めない。
「で、皆家を空けるの」
「ああ」
「明日の・・祝日・・。うち、来る・・?」

は?

裾を掴む細い指は、変わらず震えていた。
俯いたファイが、そっと顔を上げる。
頬を赤らめ、その瞳は潤んでいた。

まさか。

とっさに言葉が出なくて、黙って頷く。
ファイも黙って頷くと、横をすり抜け廊下へ駆けて行った。
重箱がそのままだ。
「・・おい、おい・・」

この前と逆だ。

普通に遊びに呼ぶのに、瞳は潤まないだろう。
「いやでも・・まさか・・」
ここは駄目でも、家でならって?

午後の授業の予鈴が鳴った。
教室になんて、行く気になれない。
それどころじゃなかった。

ファイは、そう言う意味で、俺のことを?

自覚がなかっただけで、思い起こせば多分、俺は小学生の頃からファイが好きだった。
ひょっとして、初めて会った時から。

ファイも、ひょっとして、同じようにー?






いたづら?てカンジですが、まあいたづらといえばいたづらなような・・。
次回父様に邪魔させようか一度くらいえろを頑張ってみようか考え中。
まあでも一度くらい頑張ってみようかなー!一回もないもんねうち・・(情けない・・)。
  
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