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雪の邂逅

ここは、セレス国の外れにある、小さく貧しい村。
ひとりの若者が、狩をしようと雪深い山奥に分け入った。

セレス国は魔法王国ではあるが、魔法が使えるのはごく一部の選ばれた者に限定される。
彼もまた、魔法とは縁遠い生活を送ってきた。

思いがけない吹雪に襲われた。
村に戻ろうと慌てて引き返したが、視界いっぱいの雪に方向を見失った。
見つけた小さな窪みで一晩耐え、吹雪は何とか治まった。
しかし体は凍え、もはやここがどこだか見当もつかない。
一面の真っ白な雪の森、静かに降り続く雪。
こんな所では助けも来まいと彼は歩き始めたが、どこまで進んでも雪ばかり、ただ静寂があるのみだ。

もう歩けない。凍えきった体は痛み、感覚すらなくなってきた。
絶望を感じ、彼はついに膝をついた。

自分はここで死ぬのだ・・。
今まで貧しい生活の中働いて働いて、それでも頑張って生きてきたのだ。
神様は非道い。頑張った結末がこんな事だなんて。
力なく雪に倒れこむと、今までの事が思い出された。

・・・もういいか。自分を心配してくれる親も幼い頃亡くなっているし、
このまま生きていてもきっと、・・この毎日の繰り返しだ。

でもー 彼は思う。

ひとつ思い残すことがあるとしたら・・彼は、恋というものをしたことがなかった。
神は奇跡を起こすという。
幻でもいい。一度でいい、恋に落ちてみたかった。


ふと。


ふと見上げると
氷のはじける、音がした。

そこにふたつの光があった。
真っ白な雪の光に、白金の髪が煌いた。
長い金の睫毛に縁取られた、アクアマリンの瞳の青年。
隣には銀の長い髪に琥珀の瞳の少女。

自分の村にはいない、見たこともない、綺麗な人間だ。人、だろうか。
幼い頃一度だけ連れられた街で見た、可憐な細工の人形よりも、ずっと美しい。
この世にこんなものがあるのかと。

銀の少女が小さな唇を開く。
「ねぇファイ、このひとだぁれ?」
ファイと呼ばれた金色の青年が、その宝石の瞳を、
少女から、自分に、移した。

呼吸が、とまる。

「・・・道に、迷ったの・・・?」
雪にやられ動かない手足に気付いたらしく、その青年は少し哀しそうな表情をした。

つられるように頷くと、

「ー 帰してあげる」
囁いて、彼は、華奢な指先をそっと自らの胸の前にかかげた。
指先が、青白く発光する。
と同時に、自分の体が不思議な青白い光に包まれた。


瞬きすると、そこは自分の村の家の前だった。

呆然と周りを見渡すと、やはりすでにあの人はもうどこにもいない。

あの人は、何だったのだろうー
神が見せた、幻だったのだろうか?
あの森に住む雪の精?
それとも、あれが、魔法使いというものだろうか。

きっと、あの人とはもう二度と出会えることはないのだろう。

彼等が何だったのかは分からないけれど・・・ただひとつ分かっていること。

一度でいいから恋をしたい、その願いは叶えられたということ。

彼は、いつまでもそこに座り込んでいた。



雪は静かに、降り続いている。



 End.




Chapi.6の、氷の森(?)にファイとチィがいる扉絵→
こんな可愛い二人が一緒に歩いてるの目撃したら、たまらんヨ!→
雪山とかでばったり会ったら雪の精かと思うヨ!・・・という妄想の元に作りました。

経緯としては、空間移動で森に来る際、大魔術師のファイたんは誰かの強い願いを感じ取り、
少し気になってそこに降りてみたと。
森のお散歩ついでに人助けの優しいファイですが、
代わりに若者は不治の恋の病にかかってしまったのでした。

 
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