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学園ラブコメ15のお題

9 小テスト(番外編・生徒黒鋼×先生ファイ)


伏せた長い睫毛が、濃い影を落とす。
差し込む夕日が、教室の空気も金の睫毛もーこの世界全て、オレンジに染めていた。

「もうー。ちゃんと聞いてる?黒鋼くん」

上げた瞳は、夕焼け色を表面に映す薄い蒼。間近で見ると、宝石のようだと思う。
クラスの奴らが騒ぐのも、仕方ない。

「・・ああ」
「やっぱり聞いてないー。卒業できなかったら困るでしょ?
キミはやれば出来る子だぞー」

俺の前の席に腰掛け、ため息をつく仕草をしたのは担任の教師。名前はファイという。
万年赤点で卒業の危ぶまれる俺の為、担任として放課後の個人授業を提案された。
剣術推薦で入学した俺は受験勉強をしておらず、来年入学予定の大学も同じく剣術推薦で決まっている。
昔から剣術一筋で、勉強はあまりしていないし、せずにすんでいた。
が、いくら大学が決定したところで、高校を卒業できなければ入学も出来ない。

「真面目にやってよー。卒業、したくないの?」
「出来なきゃしょうがねぇだろ」
「もー、困った生徒だねぇ」

頬杖をついて、銀のペンを細い指で器用に回す。
自分よりずっと年上のくせにそんな子供っぽい仕草を見せたり、
時折、年下の俺には分からない、心の内の見えない表情をしたりする。
私生活が全く想像できないこの教師のことが、俺は好きだった。
3月になれば(うまくいけば)卒業する。そうしたらきっと、もう二度と。
会うこともあるまい。
そう思うと、胸の奥がちくりと痛んだ。

運動場から、野球部だろう掛け声が微かに聞こえる。
「せっかくの部活の時間、大好きな剣術の稽古をしたい気持ちもわかるけど。
でもオレだって、担当の化学部、断腸の思いで欠席してるんだからねー?」
「化学部なんて、どうせ大した活動してねぇだろ」
「失礼だねぇ。ちゃんと活動してるよ。お菓子食べながら皆でお話したりー」
「・・どの辺が化学なんだ」
「あはは、剣術部と違ってのんびりした部だからー」

ふわふわした語り口。掴めそうで、掴めない。
普段結構話し掛けられることはあっても、こうしてふたりきりで話すのは初めてだった。
赤点取ってよかったと、内心思っている。

「はい、今教えた範囲の小テストー。作って来たんだよ、やってみて。
・・どうせ、解けないだろうけどぉ」
「おまえだって十分失礼じゃねぇか。生徒にそんなこと言っていいのか」
「教師にそんな言葉遣いいけませーん。それに君、全然聞く気ないんだもの。
ほらがんばってね、万一満点取れたらご褒美あげるから」
無理だろうけどねぇと笑って、ファイはふいと窓の外を見た。
横顔も、綺麗だった。



ー15分後。



「・・・嘘ぉ・・」
「おまえ、さっき説明してたじゃねぇか」
満点のテストをまじまじと見て、ファイは嬉しそうに微笑んだ。
「えらいえらーいっ、やっぱ君はやれば出来る子v
聞いてなさそうだったのに、本当はちゃんと聞いててくれてたんだー」
「・・聞いてるよ」
せっかくファイが俺の為だけに時間を割いて、俺の為だけに説明したのだ。
ちゃんと聞いていた。
「今日はこれでおしまい。約束通り、ご褒美あげなくちゃね。よーし、ご飯に連れてってあげようかー」
「飯はいい」
「えー?せっかく焼肉でもごちそうしてあげようと思ったのにー。じゃあご褒美、何がいい?」

小首を傾げて問い掛けるその仕草は、自分より幼く見える。
その華奢な肩も、細い指も、自分よりずっと頼りない。
じっと俺を見詰める、綺麗な瞳。
でもその瞳の奥は、きっと知らない何かを映している。
俺の知らない世界で、俺の知らない時間を過ごしてきたのだ。
彼は自分より年上で、ずっと大人で。


「・・なめろよ」

「え?」
一瞬。
止まったファイは、瞬いてからまた微笑んだ。
「何てー?」


「なめて。センセイ」


こんなことを言って。
ファイのいつもの言動からいって、笑って流されると思ったのだ。

けれどファイは、表情を固くした。
冗談と取られたとして、こういった類の冗談は嫌いなのだろうか。

黙って、かたりと席を立つ。気分を損ねたかもしれない。
・・言わなきゃよかったかな。
そう思った時、俺の前で、ファイは立ち止まった。囁くような声で。

「・・本気?」

片手を机について、覗き込むように顔を近づけられた。
いつの間にか日が傾いて、薄暗くなってきた教室で。
仄暗い空間にぼんやり浮かぶ金の髪が、するりと肩に流れた。

・・まさかな。

そう、思ったけれど。

「本気」

短く答えると、ファイはゆっくり、その華奢な身を屈めた。

「・・誰にも、内緒だよ・・」

え?

跪くように脚を降り、細い指で俺のズボンを寛げる。
「・・ファ・・」

どうして。
こんなことを。

「・・何で、こんなにおっきく・・なってるの・・」

取り出したそれに撫でるように触れて、ファイが囁いた。
俯いていて、表情がよく見えない。

俺の知ってるこの教師は、こんなことをしない。
都合のいい、夢かもしれない。
夢なら、醒めるその前にー。

「知んねぇ。おまえ、見てたら・・」
「悪い生徒」

掠れたような声を出したファイは、その口で俺を含んだ。
ぴちゃりと音がして、その柔らかな感触に、小さな唇が濡れるその様に、頭の奥が麻痺するようで。
「黒鋼くんの、おっきいね・・入りきらない・・」
一度口を離したファイはそう呟いて、白い指で双珠を揉みしだきながら、側面に唾液を絡ませて舐め上げる。
くちゅくちゅと音がする淫猥な舌の動きに、眩暈がした。
「気持ちィ・・?」
「ああ・・」
根元を擦り上げながらもう一度深く口に含み、強く吸い上げられる。
「・・ッ」
刺激に思わず腰が浮いて、ファイの小さな後頭部を掴み自身に押し付けた。
「・・ぅんっ」
喉の奥を突いた大きすぎるそれに、くぐもった声を出す。
同時に口腔が強く締まり、その快感に目の前が白く染まった。
「ファイ・・ッ」
直前に力任せに髪を引くと、勢いよく迸った欲望が滑る白い肌に撒き散らされた。
白濁は頬を伝い、喉元までどろりと犯す。
「・・あ・・いっぱい出た・・」
半開きの口から精液を垂らしたファイは、まるで恍惚としているかのように囁いた。
生徒になんかかけられて感じるわけないのに、潤んだ瞳はうっとりと惚けているように見えて。
その姿に、頭の奥が痺れたままで。

「悪ィ先生だな・・」
「お互い様でしょ・・」

俺のものを綺麗に舐め取り、緩慢な仕草で元に戻して。
細い指で、垂れる俺の痕を拭う。

やっと感覚が戻ってきた。

でもファイにしてもらった、ことは。
感覚は戻ったのに、まだ夢の中のようで。

「先生ってこんなこと、すんだ・・」
「しないよ。オレふつうは、こんなこと・・」
すいと立ち上がり、拭った白濁をぺろりと舐めた。
「・・え?」

じゃあどうして、今。

ぱちりと電気を付けたファイの肌は綺麗に拭われていて、何の余韻も残さずに微笑む。
まるでさっきのことが全て、本当に夢だったかのように。
「遅くなっちゃったけど、今から部活してくんでしょ?がんばってねー」
「待っ・・!」
そのまま出て行こうとする、細い腕をとった。
聞かなくては。
「どうして・・」

どうしてこんな、俺の理不尽な要求を聞いてくれたんだ。
まさか、俺のことを、なんて。

「なぁに?」
でもその蒼い瞳に見詰められると、そんな核心めいたことは口に出せなくて。

「なあ。明日の補修も・・頑張ったら褒美くれるのか」
「もっと難しい小テスト、作ってきてあげる」
「出来たらもっとすごいこと・・してくれんのか」
「満点取れたらね?ちゃんと予習して来て」
ファイは表情を変えず、細い指でひらひらと手を振って行ってしまった。
揺れる髪、細い身体。
掴めない、後ろ姿。


分からない。
ただの気まぐれ?


『しないよ。オレふつうは、こんなこと・・』


でも。
ひょっとしたらー

「・・ファイ・・」





目を開けると天井が目に入って、一瞬ここがどこだか分からなかった。
起き上がると、見慣れた布団、見慣れたカーテン。
「・・ゆ・・ゆ、め・・?」
ファイと、教室にいたはずが。
そこはまぎれもなく、自分の部屋だった。
そうだ、それにファイは先生なんかじゃなく、同い年で同級生じゃないか。
「・・・・な・・ん、つー・・」

夢の感覚が、まだリアルに残っている。


『・・誰にも、内緒だよ・・』
掠れたような声。薄闇に流れる金の髪。
ねばついた水音、蕩ける感触。小さな唇がとろりと濡れて、頭の奥が麻痺してー。
また夢に飲まれそうになる。

「何、で・・」
振り払うように頭を振った。


どうかしてる。
ファイはただの友達(というか勝手にじゃれ付かれているというか)で、同性で。


まだ胸の内に強烈に残る、強い感情。
夢の中で俺は、あいつのことが好きだった。

すごく好きだった。


「・・俺は、こんな・・」
こんなことがあいつに知れたら、堪ったもんじゃない。
俺より、きっとあいつが堪らんだろう。
合わせる顔がない。


ーどうかしてる。


などと、落ち込んでいる場合ではない。
肝心なことを思い出した。
「やべ・・っ」
今日は遅刻取締り日だ、しかも学園長自らが立ち会う。
普段起きるはずの時間は、とうに過ぎていた。
夢のことはひとまず棚に上げ、慌てて身支度をして自転車に飛び乗る。

今日もまたあいつは、楽しそうに俺を待っているのだろう。
俺がこんないかがわしい夢を見たことなど、露にも知らず。


夢の感情が、強く余韻を引く。
ただの夢とは言えない何かが、そこにある気がしたけれど。


「・・ただの、夢じゃねぇか・・」
無理矢理そう、自分に言い聞かせた。



ーまだ胸の内に強烈に残る、強い感情。
夢の中で俺は、あいつのことが好きだった。


すごく、好きだった。





もう覚えらっしゃらないと思いますが・・(汗)、お題1『遅刻寸前』で黒鋼が見た、
いかがわしい夢の内容はこんなだったのでした。そりゃ遅刻もしますな!
どうでもいいけど黒鋼が激早でしたが、夢の中ということで勘弁して下さい・・。
何やら最近えろづいてますが、次からはまた通常営業に戻りますのでよろしくお願いします♪
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