学園ラブコメ15のお題
12 下駄箱
『黒たんとはもう、会えなくなっちゃうねー』
そう言ってファイは、いつもと変わりなくふわりと微笑んだ。
俺には、分からなかった。
次の日、ファイはいつものように俺の自転車の裏を陣取り、いつものようにじゃれついて、
いつものように、笑っていた。
昨日の話は冗談だったのかと思えるくらい、それはあまりにいつも通りで。
こんな日常が、変わらず続くように思えた。
本当にもう、会えなくなるのだろうか。
当たり前のように隣にいた、この大切な存在が消えるということが実感できない。
確かに大会社を継ぐというは、重大なことだろう。
しかしファイは、寂しくないのだろうか。
俺は、これからもずっと一緒にいて。
何かと無理をするあいつを、受止めてやれたらと思っていた。
ファイのいない将来なんて、考えていなかった。
あいつは、そうではなかったのだろうか。
授業も終わり、部活の始まりかけの時間。
もう人気のない下駄箱で、先に帰ると言ったファイを呼び止めた。
「さみしくねぇのか、おまえ」
ぴくりと、細い指が止まる。
靴に掛けようとした白い手を下ろすと、ファイは俯きがちに下駄箱にもたれた。
「・・・さみしくないって言ったら、嘘になるけどー・・」
小さな、呟き。
宝石のような蒼い瞳を閉じると、金の睫毛が濃い影を落とした。
「・・いい機会だと、思うんだ」
「いい機会?」
「ん・・オレさ、ずっと黒たんに、甘えてたんだ。
・・君が大切なものを見つけてくれた、あの日から、ずっと・・」
大切なもの?そんなこと、あっただろうか。
問いかけようとすると、いいんだ、と金の髪は軽く横に振られた。
梳かれた金色が、光の波のようにさやさやと揺らぐ。
「・・本当はこんな甘えてばかりじゃいけないって、心に引っ掛かってた。
一人じゃ立てないような人間が、人の上に立てると思う?
君がいなくても、ちゃんと頑張れるようにならないといけないんだ。
父様みたいな強い人に・・だから、いい機会かなって・・」
行くな、と。
そばにいろ、と。
言いたかったけれど。
俺は、そんな大きな物を背負ったことがない。
責任を負うものの立場も気持ちも、果たさねば成らないものも。
それがどれほどのものなのか、きっと背負う者にしか分からない。
好きで、そばにいたくて、離れたくない。
そんな只自分の感情で、引き止めてはいけない、のだろうか。
「そばにいると、甘えちゃうから。こんな、風に・・」
ふわりと近付いた細い身体が、吸い込まれるようにもたれかかる。
羽根が生えているかのような軽い感触、甘く燻る髪。
覆い被さるようにその華奢な身体を包み込むと、ファイは小さく息をついた。
「こうしてると・・きもちいの・・溶ける、みたいに・・。
何もかも許されて、何も考えられなくなって・・」
ファイは体を預けきるようにして、透き通る頬を摺り寄せた。
「我侭だけど・・お願い。卒業までは、お別れする話は口にしないでね。
終わりなんてないみたいに、ずっと一緒にいられるみたいに、過ごしたいの。
いつもみたいに、こんな風に甘えさせてね・・卒業までは・・」
自分より何回りも小さな肩。
その肩に背負う、大きな責任。
一人でも立てるように。だから、離れなくてはいけない。
甘えられる存在というのは、人を弱くするのだろうか。
そっと背に回された細い腕が、僅かに震えていて。
それはまるで、親を探す迷い子のように思えてー
たまらなくて、胸に強く強く、抱き締めた。
責任を負う者の、果たさねば成らないもの。
好きで、そばにいたくて、離れたくない。
それは、この気持ちより。
大切なものなのだろうか。
大丈夫か?!君ら下駄箱なんかで抱き合ってたらギャラリーがぞくぞくと集まって来るぞ!
いや・・お題が下駄箱だったんで・・。全く下駄箱を活かさず(汗)。
もうお題で小説書くのはこれきりにしよう・・ムリだから・・(遠い目・・)
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