続・仔うさぎの大冒険1
開け放たれた教室の窓から身を乗り出せば、緑色の風に踊るプリーツスカート。
胸元に結わえたピンクのリボンがひらめき、甲高い囀りが澄み切った青空へと弾け飛んでゆく。
「聞いて!昨日すっごくトキめいちゃったーv重い荷物運んでたらね、黒鋼先生がひょいって横から持って行って
くれたんだーっ♪」
「ほんとぉ?黙ってそーゆーのしてくれるトコ、カッコいーよねっ!ねぇねっ、先生ってカノジョいると思うーっ?」
「絶ーっ対いるよ、だって先生ステキだもん!うちらみたいなお子様じゃ太刀打ち出来ない、素敵なお姉サマと
付き合ってそうじゃなーい?う〜、私がもっと大人だったら、絶対告白するのにぃーっ!!」
大人になったって、先生と釣り合うような素敵なお姉サマになんてなれるのぉ?なんてからかい合いながら、
セーラー服から伸びた脚をはしたなくパタつかせる。彼女らの視線の先はもちろん件の体育教師で、
次の授業であるサッカーの準備をしていたーー筈が、何時の間にやら男子生徒一団vs体育教師一人という
ゲームになっているようだ。お馴染みの黒いジャージを翻えらせて生徒達を6人7人と抜き去り、瞬く間にゴールを
決めた強さは圧倒的。大人げないなんて男子達が文句を言うのを怒鳴り飛ばす様に、乙女達はくすくす笑い合った。
生徒思いで頼り甲斐があって、勝負事にはつい本気になってしまう少年のような面もある先生は、皆に愛されている。
「そういえばファイちゃん、最近黒鋼先生にアタックしてないよね。もう、諦めちゃったのー?」
そう問い掛けられた少女は、小さな桜唇を閉ざしたまま皆と少し離れ、グラウンドの中心にいる教師を見詰めていた。
白雪のような肌に金を梳いた髪が煌き、長い睫毛に縁取られた大きな潤蒼は愛らしいお人形のよう。
柔らかくふくよかなバストは制服の胸部をぴっちりと丸く膨らませ、それに反してきゅっとくびれた
ウエストから揺れるミニスカートは上向いた可愛いヒップラインをひらりと包む。
誰もが見惚れる学園一の美少女は、困ったようにほんの少し頬を染めて微笑んだ。
「ぅん・・もうアタックしないんだー・・」
だって。
もう、付き合ってるんだもん。
出逢いは四月、世界が桜色に染まる頃。
中等部の入学式で、オレは生まれて初めて恋に墜ちた。
「オイ、おまえ軽すぎるぞ・・ちゃんと飯食ってんのか?」
長すぎる式典に倒れてしまったオレを抱き上げてくれたのは、屈強な体格に鋭い目付きの体育教師。
眉間にしわを寄せた顔は不機嫌そうで、ぶっきらぼうな口調は乱暴で恐ろしいのに。
保健室へ運んでくれたその手は、とっても大きくて温かかったから。
自分でもどうしてだか分からないけど、苦しいくらい胸がキュンとしてーーーそれが恋なのだと、知った。
「くーろたーん先生ーっっv」
厳しいトレーニングに励む部員達を竹刀片手にどやし付ける先生に向けて、小さな手を大きく振って。
知らん振りしたって眉を顰めたって結局振り向いてくれる彼へ、武道場の入り口から思い切り声を張り上げる。
貴方に伝えたいことは、たった一つ。
「だぁーいっすきーっっvvv」
「な・・ッ!教師をからかうんじゃねェ!!」
どんなに邪険にされても、鬼も逃げ出すような強面で怒鳴られても、ラブコールを送り続けるめげない生徒。
これは、誰もが知ってる恒例行事となった。
「ひどいですよ先生っ!学園のアイドルファイちゃんに何て事言うんですかーっ!」
「いいなぁ先生ー、照れなくてもいいんですよー?!」
けらけら笑う部員達に冷やかされ、もう10セット追加だという怒声と大袈裟な悲鳴が高い天井にこだまする。
公衆の面前で告白したって皆笑うだけなのは、彼がオレを相手にするはずがないから。
教師と生徒の恋愛はご法度だし、彼はこう見えて学園一良識ある教師だと誰もが認めている。
だから、いくらオレが頑張ったってこの関係が進展するはずないって、皆思っていたのだけれど。
それでも、オレは信じてた。
それでも、好きだって言い続けた。
だって、先生の事が本気で好きだったから。
だから。
「黒たん先生って・・彼女、いるのー・・?」
破裂しそうな胸を抑えて聞いた質問に、先生が頷いた時。
ショックで、哀しくて、苦しくて。
でも先生が決めた相手なら、きっと誰より素敵な人だから。
諦めるしかないんだって、思った。
だから、オレは先生にお願いをした。
最後に。
諦めるから、せめて最後に。
キスして下さいって。
先生は、オレの我侭を叶えてくれた。
先生は優しいから、傷ついたオレを慰める為にキスしてくれたんだって思った。
でも、それは違った。
それは、
最後のキスではなくて。
先生とオレの。
始まりの、キスだった。
一話は序章っぽく短めで・・・例によって裏部屋なのに、まだ全くえろの気配すらナシ(汗)!!
早く裏部屋らしくしたいですね〜・・。
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