黒ファイパラレル
二人は堀鍔学園大学部所属。黒様2年生。ファイ1年生。 二人ともいろんな意味で学園の憧れの的。
黒様は結構遊んでいて女に慣れてる感じ。しかも傲慢。女体ではなく、黒ファイです。
堀鍔学園大学部 『二人は恋人?』 〜クリスマス編〜
正に絶体絶命。俺がこんなピンチに陥るとは夢にも思わなかった。
好きな奴を目の前に、冷や汗をかくなんて。
ありえねえ。
1 はじまり
黒鋼は、堀鍔学園大学部2年。先日の学園祭で2年連続「ミスター堀鍔」に選ばれ た。剣道の腕前は師範代で、
インターハイや国体で何度も日本一になった。それに加 えて鋭い眼光が端正な顔に映え、学園中で知らぬ者は
ないほどの憧れの的だ。だから、 今まで女に不自由したことはなかったし、今度はミス堀鍔に選ばれた女を
彼女にしよ う、そんな軽い気持ちでファイを呼びだした。
「おい、ちょっと来い」
ファイは突然の呼び出しに少しだけ驚き、大きな目を更に大きく見開いたが、小さ く頷き黒鋼の後について
歩き出した。
第2校舎の裏手は今は使われなくなった焼却炉があるだけで、銀杏の葉がひらひら と時折舞い降りている。
彼女は何の用かというように、黒鋼を見上げた。
ハーフだという彼女の瞳はアクアマリンのように輝き、柔らかそうな髪はまるで金 の糸のよう。
「おまえ、つきあってる奴がいないなら俺の女になれよ。」
ずいぶん横柄な物言いにもかかわらず、彼女は少しだけ驚いた顔をしたもののすぐに 答えた。
「いいけど・・・オレでいいの?」
「あぁ」
こういうときは短く返事をするに限る。下手に喋れば言い訳じみて聞こえるからだ。
「ふぅん・・。じゃ、よろしく。オレ、ファイ。君は?」
「黒鋼だ」
黒鋼は、俺の名前を知らないのかとばかりに不機嫌に答えた。
「ふ〜ん、じゃ、黒様、だね。」
へにゃん、と笑う顔にドキリとした。そのせいで、黒鋼は変な呼び方するな、と言い 損ねてしまった。
「じゃ、早速一緒に帰ろうか。」
「うん、いいよ〜。あ、オレもう一時限あるからそれからになるけど?」
二人は正門前で待ち合わせた。ちょうど学生が一番多く帰る時間で、実は黒鋼は、 こうなることも
計算済みだった。これで、学園一の美男美女がつきあい始めたと知れ 渡ることだろう。
待ち合わせの10分前に正門に到着。ファイは時間ぴったりに現れた。他愛のない会 話をしながら家路につく。
正門からずっと、悲鳴とも歓声ともつかない声が響いてい たが無視していた。
「おまえ、留学しに来てるのか?」
「ううん、9月からなんだけど正式に入学したんだよ。オレ、夏まではイギリスのハ イスクールの寄宿舎に
入ってたんだ。日本の大学に入りたかったから、編入試験を受 けたの〜」
「ふーん。そういや、ミス堀鍔に選ばれてたろ。」
「あぁ、あれね。何でオレが選ばれたのか解らないんだけど・・・。」
ちょっとだけ首をひねる。そんな動作も可愛らしい。
「やっぱり綺麗だからじゃねぇか?」
言ってからちょっと横を向いていた。ファイはびっくりして黒鋼を見つめている。そ して不思議そうにちょっぴり首を
かしげたものの、何もなかったかのように言った。
「でも黒ぽんの方がすごいよー。2年連続で選ばれたんでしょー。オレは来年は絶対 無いもん」
「そうか? 俺が1票入れてやるよ。」
「あははは、ありがとう〜」
何がおかしいのか、ファイはおなかを抱えて笑っていた。
2 準備
その後、二人はは毎日のように帰りに待ち合わせて帰るようになった。そして、フ ァイのマンションにも寄るように
なるのに、そう時間はかからなかった。 ファイは一人暮らしのせいかとても料理上手で、寒くなり始めたこの頃は、グラタ ンやロールキャベツを作り、黒鋼が食べるのを嬉しそうに眺めていた。
黒鋼にしては珍しく、部屋に
上がり込んでる割には今までの女達と違ってすぐに押 し倒したり出来なかった。隙がない、と言うよりかわされてる感じ。黒鋼はキスさえ 未だに出来ないことに苛つき始めていた。
クリスマスが一週間後に迫ったその日、いつも通り一緒に帰り、ファイのマンショ ンで夕飯を食べた。
ファイは皿を洗っている。そうっと後ろに立つと、耳元に囁いた。
「ファイ。」
不意にすぐ近くで囁かれた声に驚いてファイが振り返った。黒鋼はファイを挟むよう にしてシンクに両手をつき、
じっと蒼い瞳を見つめた。
もう一度名前を呼ぶ。
「ファイ。」
ファイは、驚いているような、緊張しているような表情で黒鋼を見上げている。
「くろ・・さ」
言い終わる前に、ファイの顎に手をかけ、唇を押しつける。
ファイはされるままになっていた。抵抗するでもなく、求めるでもなく。そして、 黒鋼はファイの腰に手を
かけたまま、そっと唇を離した。
「嫌だったか?」
「・・・ううん・・・ちょっと驚いただけ・・・」
ファイは真っ赤になって俯いたまま、蚊の鳴くような声がやっと聞き取れる声で答え た。
「よかった」
黒鋼はギュッとファイを抱きしめ、もう一度キスをした。今度は深く長いキスを。
今日は12月23日。すでに大学は冬休みに入っていたので、ファイと待ち合わせを して一足早く
クリスマスプレゼントを渡した。
「明日、これを着てこい」
「え、これ服なの? 明日、って・・?」
不思議そうに戸惑いながらも結局承知したファイだったが、その夜黒鋼の携帯が鳴った。
「黒様、オレ、こんなの着れないよ!」
ものすごい剣幕だ。やはり、女らしい服は好きではないのだろう。普段のファイは動 きやすい服装が多かったし。
「その色、おまえの瞳に合うと思ったんだ。それに、約束したんだから守れよな。き っと似合うぜ」
プツッ 強引にそれだけ言って、黒鋼は電話を切ってしまった。ファイのことだ、文句を言い つつ着てくることだろう。
そう確信して、黒鋼はひとりニヤリとした。
3 天女
12月24日。クリスマスイブがやって来た。
予約してあるのは超一流ホテルにある 三つ星レストランだ。一応正装して、ファイをロビーで待つ。
暫く経った時、ロビーの空気がしゃらんと燦めいたような気がした。
見ると、まる で天女か何かのようなファイが、ほおをふくらませてロビーに入って来ていた。両腕 を腰に当てている仕草が可愛らしい。
「黒様、こんな恥ずかしい格好、させないでよっ(`へ´)プンスカ」
思わず、見惚れていた。白いドレスは躯にぴったりとして、スレンダーな体型を際 だたせている。裏地の蒼が
透けて、表から見る色がファイの綺麗な瞳によく似ている。 歩く度、前に長く入っているスリットからチラリと細い足が見え隠れする。肩にかけ たショールはまるで天女の羽衣のようで。金の髪は夜会巻きにして、蒼い宝石のつい
た
髪飾りをしていた。
不覚にもぽかんとしているように見えたらしい。そんな黒鋼にファイは文句を続け た。
「もう、大変だったんだからね!こんなの着たことないし、髪の毛はどうしたらいい かわかんないし!仕方ないから友達に美容室紹介してもらって着替えから髪の毛から
みんなしてもらったんだよ!」
止まることを知らない苦情の山に、ロビーに居合わせた人達は目を丸くしている。し かし、半分以上はファイの
美しさの方に驚いて見とれていたのは間違いない。
「あ、あぁ、綺麗だな。よく似合ってるよ」
黒鋼ははっと我に返るとあわててとってつけたような台詞を言っていた。ファイは 相変わらず腰に手を当てて
睨んでいる。
「そんなに睨むなよ。カワイイ顔が台無しだ」
改めていつもの調子で言い肩を抱くと、ファイは真っ赤になって、やっと表情がゆる んだ。
「イタリアン、好きか?」
「うん、大好き!」
ファイはぱっと顔を輝かせると、黒鋼の腕を取り、我先にとエレベータに向かった。 個室を取っていたせいか、
ファイは席に着くとロビーから移動してきた時ほど緊張 していないようだった。個室に入るまで、男女を問わず
何人の人が振り向いたことか。 ファイは着慣れない服と靴でかなり緊張しながら歩いてるのが隣にいても判った。
そ してその様が可愛らしく、更に時折ふわりと微笑んだりりするから、余計に人目を引 いた。黒鋼の方を見ている
人も少しはいたが、ファイはすれ違う人々に見られている 視線を感じ、更に緊張したようだった。
豪華で美味しい食事にファイの機嫌も直り、あっという間にグラスワインを空けて しまった。ほんのりと頬が
染まっているのが何とも色っぽい。
「酒、大丈夫なのか?」
「へいきー。外国じゃ食前酒とか出たりするし、正式なディナーはワインがつきもの だからね〜。」
「そりゃそうか。」
ふと、ファイが緊張して歩いていたことを思い出し、黒鋼は言った。
「足、痛かったら靴脱いでもいいぞ。俺たちしかいないんだから。」
「そうだね〜。こういう靴、履いたことないし、実は靴擦れしそうなんだよね」
ファイはそう言うと、長いスリットから白く細い足を出すと、ぱっと靴を脱いでしま った。 そして。
「黒様、もう一杯だけ、いーい?」
つづく。